星のや竹富島で島特有の作物を育てる「畑プロジェクト」

星のや竹富島は、2012年6月に開業して以来、島民の方々から歴史や伝統を学びながらリゾートを運営しています。竹富島は観光業や流通の発展に伴い、かつては主産業であった農業に携わる方々が減ってきています。星のや竹富島では、失われつつある島の畑にまつわる文化継承に貢献するため、2017年より「畑プロジェクト」をスタートしました。

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畑プロジェクトへの想い

竹富島は珊瑚礁が隆起してできた小さな島で、山や川がありません。かつては物流もほとんどなく、自給自足の生活を営んでいました。山や川がないことから水が豊富ではないため、土壌も作物が育てるのに適したものではありません。島の方々は食料を得るために様々な工夫を凝らしたり、土地に合った雑穀や野菜、薬草を中心とした農作物を育てたりなど、竹富島特有と言われる畑文化が生まれていきました。農業に適しているとは言えない土壌や自然環境に加え、人頭税など人為的要因による過酷な環境の中で、日々の農作物の豊凶(ほうきょう)は生命に直結する問題でした。そのため、現在でも行われている年間約20もの祭事は豊作を祈願するものが多くあります。祭事の中で奉納される伝統芸能である唄や踊りの内容も農業にまつわるものが多くあり、島の歴史や文化と農業は切っても切れない深い関わりがあります。 かつては農業が生活の一部となっていた竹富島でしたが、観光業や流通の発展に伴い、現在では農業に携わる方々が減ってきています。衰退しつつある島の畑文化を次世代へ継承するため、継承活動に精力を注いでいる前本氏の想いに1人のスタッフが共感し、竹富島の自然環境や人々の営みから生まれた島特有の畑文化や農作物を継承するため、「畑プロジェクト」は始まりました。

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収穫された粟

島最大の祭事「種子取祭」は、五穀豊穣と子孫繁栄を祈願する祭事です。祭事期間中には、粟の種子下ろしの儀式や、粟を使用した奉納芸能の演目があり、粟は種子取には欠かすことのできない作物です。昔は各家庭で種子下ろしの儀式や、竹富産の粟を使用した奉納芸能を行っていましたが、現在では島で育てる人が少なくなってきたため、竹富島産の粟を使うことが困難になりました。星のや竹富島では、島の祭事の伝統を守りたいと考え、前本氏の指導のもと、施設内の畑で粟の育成を始めました。

粟の収穫

粟が使用された奉納芸能「ホンジャー」

竹富公民館へ奉納する様子

粟の収穫

粟が使用された奉納芸能「ホンジャー」

竹富公民館へ奉納する様子

2017年10月
施設内の畑で粟の種まき
2018年 2月
粟と雑草を誤り、粟を刈り雑草を栽培していたことが発覚、種を譲って頂き再度種まきを行う
2018年9月
粟を収穫し、施設内の畑で育てた粟を初めて島へ奉納
2018年9月
奉納した粟を島最大の祭事「種子取祭」で使用していただく
2019年 7月
粟の種まき
2019年10月
施設内の畑で育てた粟を島へ奉納

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クモーマミ(小浜大豆)

豆が小粒な「クモーマミ」

かつて竹富島で栽培されていた小浜島の在来大豆であるクモーマミは、小粒ながらも良質であることが特徴です。お祝いの際にはクモーマミで作った豆腐を贈ったり、島の方々が総出で協力して味噌を作ったりしていました。 島の方々の大豆にまつわる豆腐や味噌作りの想い出や、今の子どもたちにも食べさせたいという想いを受け、クモーマミの復興に向けた取り組みを始めました。竹富島や小浜島でも栽培がされておらず、種がなかなか見つからない中、沖縄県立八重山農林高校にて栽培していることが判明し、貴重な種を譲り受け施設内の畑で育てています。

収穫方法を説明している様子

豆腐作りの様子

収穫方法を説明している様子

豆腐作りの様子

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命草(ぬちぐさ)

命草の収穫

命草は先人たちの知恵により生活の様々な場面で重宝され、集落の各の庭でもよく育てられていました。島の方々は、病気の時に干した草で入れた茶を飲んだり、虫刺されや傷の患部に汁を絞って塗ったりなどして、健康を保つために利用してきました。しかし、流通の発展とともに、命草にまつわる文化は薄れ、使用方法や種類そのものについて知る人も減少しています。命草文化を次世代へ継承するため、島の子どもたちと一緒に新田氏から命草の種類を学ぶだけでなく、料理教室の開催などを通して、現在でも活用できる使用方法を学んでいます。

施設で栽培している命草の一部

集落内の命草を探している様子

施設で栽培している命草の一部

集落内の命草を探している様子

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農作物が育ちにくい環境の竹富島で、島の方々の生活を支えていたのが、島で採れる特有の芋でした。かつて主食として食べられていた芋は、白、橙、紫の3種類があり、さつまいもに似た甘みが特徴です。芋は「ンヌイ」という団子のようにして、ツルはおひたしにするなどして食べられていました。星のや竹富島では、前本氏から種芋を譲り受け、施設内の畑で育てています。

島の子どもたちと芋の収穫

星のや竹富島ラウンジで提供した「ンヌイ」

島の子どもたちと芋の収穫

星のや竹富島ラウンジで提供した「ンヌイ」

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今後の展開

島の生活に密接に繋がっていた畑文化が失われつつある中で、前本氏の想いに共感した1人のスタッフの働きかけから「畑プロジェクト」は始まりました。プロジェクトを進めていく中で、施設の取り組みに賛同した島の方々の協力や活動への参加が増えていき、プロジェクトの幅も広がっています。今後は、より多くの島の方々を巻き込み、プロジェクトへの共感を得ることがひとつの目標です。また、宿泊者に向けて、星のや竹富島の畑を通して得た知識や農作物を使用したサービスの提供や、島の文化や歴史の基盤となっている畑文化をより伝えられる機会の提供などを計画しています。 「畑プロジェクト」を通して島の畑文化の価値が伝わり、活動への共感から竹富島の誘客に繋がれば、衰退しつつある文化を継承しながら観光業を展開していく、持続的な新しい観光の在り方が見つかると信じています。竹富島が理想とする島の伝統文化や美しい景観を残しつつ、観光業を続けていく持続可能な観光の在り方の実現への一歩に「畑プロジェクト」が少しでも貢献できるよう、引き続き取り組んでいく予定です。

畑プロジェクトのリーダー 小山 隼人(こやま はやと)

施設のご紹介
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星のや竹富島
沖縄県八重山郡竹富町竹富1955

石垣島から高速フェリーで15分、琉球赤瓦の屋根や白砂の道など沖縄の原風景が残る竹富島。そこに特有の伝統建築を踏襲した集落を造りました。一致協力を意味する「ウツグミ」の精神で島と共に共存しています。

#伝統文化・工芸の継承支援
日本のみならず世界中に息づく素晴らしい伝統文化や工芸は、世界的に見ても価値のある魅力です。しかし、そのすべてにスポットライトが当たっているとは言えません。星野リゾートは、「ご当地楽」を起点に職人や地域の人たちとお客様とのご縁をつなぐことで、日本が誇る伝統文化・工芸を次の世代へと届けていきたいと考えています。
#伝統文化・工芸の継承支援