行ったら、やっぱり、面白かった!NIPPON 再発見紀行

  • REPORT.01 七子八珍を求めて八色センターで食べ歩き

  •  父を亡くして初めての旅は青森行きとなった。九州北部で生まれ育った父は魚好きで、日本酒や焼酎を呑みつつ旬の刺身をほおぼっているときだけは、珍しくよくしゃべった。今では世界無形文化遺産に登録された和食だが、父のように地産地消があたりまえだった時代を知る人々にすれば、季節ごとに楽しむ食卓の味こそが和食の醍醐味だったのかもしれない。
     そんなことを思いつつ出発前に青森の海産物について調べていたら、「七子八珍」なる聞きなれない言葉にぶつかった。青森観光コンベンション協会による名産品をまとめた造語らしいが、その内容を見ると、青森の海の豊かさが生々しく伝わってきた。
     七子とは、たらこ、すじこ(鮭の卵)、ましらこ(陸奥椀でとれるマダラの白子)、ほたてのこ、このこ(ナマコの卵巣)、たこのこ、ぶりこ(ハタハタの卵)といった七種の魚貝類の子。八珍とは、ほや、なまこ、がさえび(別名シャコ)、くりがに、さめ、うに、ふじつぼ、白魚など八種の珍味とあった。
     父の影響か、若いころから魚貝類が好きだった私は、「七子八珍」のラインナップを知っただけで舌なめずりしてしまった。さらに調べると、「堂々九品、隠れ十品」とまだまだ続くではないか。本州の最北、三方を海に囲まれた青森の海産物を堪能したいと私は強く願い、まずは八戸を訪れた。
     3月最終日の三沢空港に降り立ち、前日までの雪が残る市街地をぬけて向かったのは、八戸中央卸売市場の正面にある八食センター。2階建ての市場の北口から足を踏みいれたそこには、15軒の鮮魚店と16軒の乾物珍味店が、2つの通路をはさんでずらっと並んでいた。壮観だった。東京の築地市場の場外店を前にしたような興奮を覚え、私は次々と店頭にならぶ魚貝類を確かめた。  ↙

  •   三陸産のカキ、ホタテ。八戸産のヤリイカ、ザルメ、かすぺ、キンキン、真ガレイ、なめだかれい、生わかめ、くりがに、ぶどうエビ。陸奥湾産のナマコ、ホタテ。三沢産のホッキ貝……取材ノートに品名を書いていたら、「ちょっと食べてみる?」と声がかかった。
     小柄な初老の男性店員が差しだしたのは、くりがにだった。本来は「栗蟹」と記すのだろう、いがをまとった栗よりひと回りほど大きい甲羅から細い脚がのびている。私は恐縮しつつボイルされた甲羅をとり、箸で身をほぐして口に運んだ。磯の香りをふくんだ甘みが美味かった。品のいい味だった。
    「東京じゃ見かけない蟹ですね」
    「これは、地元で、桜の咲くころによく食べるんだよね」
     そう教えてもらい、素直にうなずいた。満開の桜を愛でながら口にすればまた格別だろう。栗よりも桜がにあう蟹である。私は遠慮を忘れ、気のいい店員さんにすすめられるまま三匹たいらげた。
     くりがには8匹で1500円。この日が収穫期の最終日だったホッキ貝は1個120円。天日干しにされた巨大なロングホタテは2000円。ぶどうエビ1パック1500円……多種多様な魚貝に目移りしながら館内を1周2周、3周4周とめぐり、七子八珍ではおさまらない青森の海の豊壌ぶりを堪能。土産にくりがにとぶどうエビを買って八食センターを後にした。

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    八戸中央卸売市場の真向かいにある八食センター。日本酒、乾物などなんでもある。
    買ったものをその場で炭火で焼いて食べる「七輪村」も併設している

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