軽井沢『ネイチャーツアー 』の仕掛人

星野リゾートの人 07

ピッキオ

大塚敏之 (入社22年目)

軽井沢の星野エリアに隣接した約100haもの国設「野鳥の森」。
年間約80種類の野鳥など野生の動植物が息づくこの森で、ピッキオと呼ばれる「森のいきもの案内人」たちが、生態系を守りつつ安全に自然を体験してもらえるツアーを開催しています。
定番の「野鳥の森ネイチャーウォッチング」や、3~11月の「空飛ぶムササビウォッチング」、12月~3月の「きらめく星空ウォッチング」など、大人から子どもまで楽しめる自然体験がいっぱい。
大塚敏之はそこで活躍するスタッフの1人で、野鳥、昆虫、ムササビまで「飛んでるものならなんでも詳しい」生き字引なのです。

ピッキオのネイチャーツアーはどうやって生まれたの?

「野鳥の森」でピッキオが始まって

野鳥が大好きだった星野嘉政(星野リゾート代表・星野佳路の祖父)が、日本野鳥の会創設者で歌人の中西悟堂氏に心酔して弟子となり、星野と野鳥の深いつながりが始まりました。そして1974年に、軽井沢星野エリアに隣接する森が国設軽井沢野鳥の森に指定されます。その後、エコツーリズムを提唱する現代表が‘92年に「野鳥研究室」を開始。大塚は’95に入社しました。
「野鳥研究室に入ったら、ちょうどそれが『ピッキオ』に名前が変わるタイミングだったんです」。「ピッキオ」とはイタリア語で「キツツキ」の意味。「キツツキが暮らすような豊かな森を未来に残したい」という意味が込められています。
ピッキオ

バードウォッチングの意外なおすすめは冬

年間1万人以上が訪れ、そのうち2割がリピーターというピッキオのネイチャーツアー。ひとことに森を観察すると言っても、季節ごとに様々な生きものが。大塚たちは趣向をこらしたツアーを作っていますが、意外なことに冬場には楽しみがいっぱいだそう。
「定番の『野鳥の森ネイチャーウォッチング』ではさまざまな動植物を観察しますが、実は野鳥を見るなら、木の葉が生い茂らない冬場が観察しやすくていいんです。鳥だけではなく、雪が積もると動物の足跡が残されていて、その行動も読み取れて楽しい。カモシカが足を踏み外したのか、斜面に滑ったような跡があったり。けもの道を歩いていたノウサギが、遊歩道にさしかかるところで躊躇するように立ち止まっていたり。
軽井沢野鳥の森は標高が高く落葉樹が多いので、四季の移り変わりがはっきりしているのもよいところです。ぜひ違う季節にもう一度来ていただきたいですね」。

ムササビとの出会いの確率を98%に!

ピッキオの大ヒット企画のひとつが「空飛ぶムササビウォッチング」。
「かつて、先代の社長の家は、現・星のや軽井沢の敷地内にあって、ベランダに巣箱を掛けるとムササビが入ったんだそうです。これがモフモフしていて可愛いし、滑空シーンはダイナミック。じゃ、それをお客様に見せようと」ムササビの生態と飛行ルートを徹底的に調べ、日没間もない時間帯に行動が活発になることを突き止めました。その遭遇率は現在なんと98%!
「昼間は巣穴の中で寝ていて、起きて活動するところを出待ちするんです。もちろん事前にどこにいるかを調べています。我々のほうへ向かって飛んでくると迫力が違います。低く真上を飛んでくると風圧を感じますよ!」。

PROFILE

千葉県習志野市出身。’70年代には水田が残る町で、そこに生息する鳥や昆虫、カエルなどを見て育つ。高校時代は自然を撮影することに熱中する。大学は理学部生物学科に学び、‘95年に入社。

仕掛人を構成する要素

野生の生き物への深い思い

大塚が生まれ育った千葉の習志野市は、‘70年代にはまだそこここに水田がありました。
「私は田んぼでザリガニ、カエルの卵、シラサギがふわふわ飛ぶのを見て育ちました。でも私が学校を卒業する頃にはそんな光景はなくなっていました。水田が宅地へと開発されたからです」高校時代は地元で少なくなっていく生き物たちを懸命に撮影し続けていたと言います。
「子供の頃から野生の生き物への興味があって、それが自然保護への関心につながっていったんだと思います」。

理屈っぽさは先生の影響!?

大学時代、大塚が影響を受けたのは2人の先生、1人は伊豆諸島の鳥島でアホウドリの研究を続けている、長谷川博先生。もう1人は底生生物の専門家・風呂田利夫先生。
「3年間、長谷川先生の研究室にいました。日中はデータ整理をしているのですが、17時を過ぎると学生にビールを買ってくるよう指示が出る(笑)。そうこうしてると向かいの部屋にいらっしゃる風呂田先生もやって来て、みんなで飲みながら、いろんな議論をしました。私が理屈っぽいのはそのせいですかね」。

ガイドするとき、心がけていること

森を歩くとき、「見方のヒント」がわかると、自然や生き物を見ることがもっと楽しくなると、大塚は言います。
「彼らがそこに暮らしている理由には、土地の歴史や他の生き物とのかかわりが深く関係していますし、姿や行動には、長い進化の歴史が詰まっています。ちょっと見方を変えることで、まわりの風景が驚異の世界へと変貌する。見えなかったことが見えてくるんです。そして愛おしさを感じてもらえれば、ガイド冥利に尽きます」。

ピッキオ
広報
斉藤あずさ

普通の人とは違う視点をもった人

大塚さんは頑固で理屈っぽい、いわゆる変人と言われそうなタイプの人(笑)。でもだからこそ普通の人とは違う面白い視点や鋭い勘をもっていて、生み出されるものがあるんです。たとえば、大塚さんの撮る鳥や昆虫の写真はセリフが当て振りできそうなほど、いきいきしているんです。ものすごく観察眼があるのかもしれませんね。困ったとき、わからないとき、とても頼りになる人でもあります。

仕掛人に聞いてみました

Q

人に教えたくない場所はありますか?

「野鳥の森」はどこでもウェルカムですよ(笑)。でもあまり知られていないのは、4月末~5月初め、星野エリアの湯川にオオルリやキビタキが集まってきて川で餌を食べているところですね。芽吹き時で餌になる虫が少ないようで、夕方、水辺に虫を探しにくるんです。とてもきれいな光景ですよ。

Q

写真はプロ級。本も出されていますね。

主にピッキオの出版物ですが。また『野鳥の森ブログ』の写真と文章も担当しています。
昆虫は手元近くで撮れるので、機材が軽くて楽ですね(笑)。飛んでいるものは飛行機も含めて大好きです。

Q

新しいツアーはできそうですか?

2016年8月1日、ピッキオは現在の場所に移転しました。目の前の「ケラ池」も改修。改修前はカエルが4種類、トンボは20種類ほどが生息していたのですが、さらに生き物で賑やかになるよう環境を整えて、水辺の生き物を観察するツアーをしたいですね。

仕掛人にとって"旅"とは

Q

今まで行った旅先で一番好きな場所は?

実はそんなにたくさん旅をしているわけではないのですが、しいて言えば北海道ですかね。北海道では海岸べりに原生花園(げんせいかえん/自然の花畑)が発達していて、そこに鳥達がさえずる様子は最高に美しいです。

Q

どんな時に旅に出ようと思いますか?

3歳と1歳の子どもたちがいるので、最近は実家のある千葉と福島を行き来しています。3歳の息子は新幹線に夢中なので、彼が新幹線に乗りたいと思うときが旅時かな(笑)。

Q

もし一人でまた旅にいくとしたら?

雪の上のタンチョウヅルが見たいんです。以前、「星野リゾート トマム」に1年半赴任していたのですが、その年は雪が少なくて、枯野にタンチョウヅルだったので。

Q

旅先に必ずもっていくものは?

カメラですね。独身の頃は絶対に持っていっていました。今は難しいこともありますが、やはり写真は欠かせないですね。

これからやりたいことはなんですか?


文:森 綾、撮影:ヒダキ トモコ、イラスト:山田 だり

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