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星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 11 界 熱海 駿河竹千筋細工職人 杉山茂靖さん星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 11 界 熱海 駿河竹千筋細工職人 杉山茂靖さん

旅の魅力はその地域にあり
星野リゾートの施設の「個性」を担うのは、その土地を象徴するプロフェッショナル、職人さんや生産者さんの存在です。
彼らの仕事や目指すもの、発信力に着目し、日本各地の未知なる旅へとアプローチします。
文・さとうあきこ

世界で唯一の技術を受け継ぐ「駿河竹千筋細工」への誇りと希望世界で唯一の技術を受け継ぐ「駿河竹千筋細工」への誇りと希望

杉山茂靖さん

「みやび行燈製作所」の会長・杉山雅泰さんの三男。高校卒業後、大阪の雛人形店で6年間接客を学び、その後「駿河竹千筋細工」の伝統工芸士・渡邊鉄夫さんに師事。長男(社長)、次男(専務)とともに、職人として家業を継ぐ。竹林管理や道具作りなど、工房を支える様々な職人の後継者問題とともに、次世代へと繋ぐ発信や新しい試みに挑む。

    

竹の魅力を極める
繊細な伝統工芸品

日本人と「竹」の関わりは、縄文時代からといわれ、古来より有用な天然素材として利用してきた歴史があります。軽くて加工性にも優れた竹は、時代ごとに作業道具や日用品へと姿を変え、国内各地で作られてきました。その代表が「竹かご」や「竹ザル」ですが、今回の「駿河竹千筋細工」は、一見して他の産地とは異なる竹製品。写真の「虫籠」をご覧ください。細くしなやかな曲線と、繊細な直線が織り成す優美なフォルム。1度見たら忘れられない、芸術品のようです。

杉山茂靖さんの工房のある静岡市は、安倍川、藁科(わらしな)川の流域など昔から良質の竹の産出地。弥生時代の登呂遺跡からも竹ザルが出土し、古くから竹製品が生活用具として根付いていました。さらに一説では、江戸時代初期、駿府に移り住んだ徳川家康公が、趣味の鷹狩りのえさ箱を竹細工で作らせ、それが「駿河竹千筋細工」の始まりともいわれています。

1本1本手作りのひごから
優美な一生ものが生まれる

江戸時代の職人の技を継ぐ虫籠や鳥籠は、鈴虫のひげや鳥の羽根を痛めないよう「丸ひご」と「曲げ」を駆使した「駿河竹千筋細工」を象徴する工芸品。この「千筋」の由来には、諸説ありますが、竹ひごが畳の横幅(約90cm)に1000本並ぶほど細かいことから名付けられたものとか。「平ひごを編んで作る一般的な竹製品と違い、丸ひごを組み、形作るのが『駿河竹千筋細工』の特徴です。主に真竹や孟宗竹を使い、材料となるひごとそれを指す輪(枠)を作ります。竹の繊維を生かし、特徴を見極めることが大切で、出来映えの美しさだけでなく、強度にも優れた一生モノに仕上げています」。杉山さんの工房では、工程のほとんどが文字通りの手作業。太さも様々な丸ひご(約0.8mm~5mm)や、厚みのある輪も1本1本手作りし、艶や弾力といった竹の優美で強い魅力をひきだしています。「手作りの製品なので、繰り返しの修繕も効き、長く使うことで、経年変化による微妙な色合いも楽しめます」。

伝統の職人技が際立つ
完成美へのこだわり

杉山さんが日々の製作で最も神経を使い、難しいと話すのが、輪の「曲げ」と「接ぎ」の技術。焼コテや「胴乱」と呼ばれる道具を使う「曲げ」は、熱で竹を曲げるのですが、いわゆる“型”があるのではなく、両手の感触だけで熱の強弱を調整しながら、丸みや角の大きさを決めていきます。「完成の良し悪しを左右する重要な技術ですが、竹の性質や季節ごとの伸縮を考慮する作業ゆえ、何百何千と曲げて体に覚えさせるしかありません」と杉山さん。曲げたあとは、竹の両端を斜めに切って、特殊な接着剤でつなぎます。接着面を多くとり、なめらかに接ぎ、段差を作らないように仕上げるので、一見すると継ぎ目は全くわかりません。これが、肌当たりもやさしい「駿河竹千筋細工」特有の継ぎ手の技。古来の職人の美しさへのこだわりが、細部まで正確に受け継がれています。

価値を正しく伝え、
残ってこその伝統工芸

「身の締まった良質な静岡の竹。これを生かす細やかな技術は、世界でも唯一ここだけのもの」と、誇らしげに話す杉山さん。最近の国内外からの注文や反応を通し、その思いはより強く深まっています。残ってこその伝統工芸と、お客さまからの依頼にはできるだけ応え、デパートなどの催事では、実演作業にトークを交え、唯一無二の魅力を披露。また、照明作家とのコラボレーションや、旅館やホテルの空間作りなど、新しい試みにも意欲的に参入しています。「以前催事で、祖父の作品を修理に持ってきた人がいて。技術はもちろん、思い出も宿る使い込まれた品に、あらためてうちの竹細工はすごいなあ(笑)。高価であっても、その価値に納得し使い続けたくなる逸品を作りたい。目指すは、今までに誰も見たことのない『駿河竹千筋細工』の新境地です」

駿河竹千筋細工ができるまで

私の愛用品

職人の体の一部となっていく「道具箱となた」

杉山さんの祖父の代から使われてきた道具箱。その中には、竹の下処理や丸ひご作りの道具、小刀や筆記道具などが入りずっしり重い。蓋を閉めると作業台。職人が毎日むかうデスク?の趣です。「これは40~50年経っていると思いますが、それぞれの職人が専用で使うもの。1日の大半をこの道具箱と過ごし、終わるとかついで持ち帰ります。シンプルな作りの『なた』は、材料の丸い竹に切れ目を入れ、割ったり裂くのに用います。使い込むほどに自分のクセがついて扱いやすくなるので、とても大事にしている道具です」。

界 熱海で楽しむ
駿河竹千筋細工

「界」では、滞在全体を通してご当地の魅力に触れていただくため、その地域で活躍する伝統工芸の作家とコラボレーションした「ご当地部屋」をご用意しています。界 熱海では、細工技術が高い評価を得ている「みやび行燈製作所」のご協力のもと、ご当地部屋「あたみ梅の間 特別室」が誕生しました。飾り障子や行燈など、しなやかで繊細な曲線が落ち着きと柔らかな雰囲気を醸し出します。駿河竹千筋細工の魅力をぜひご体験ください。

ご当地部屋:あたみ梅の間 特別室

界 熱海の本館は、江戸創業の伝統旅館。日本の美的感覚の粋を結集させた建物で、間取りから障子枠の大きさまで、同じ部屋はひとつとして存在しない造りです。その中で最上階に位置する特別室だった部屋が、ご当地部屋「あたみ梅の間 特別室」として生まれ変わりました。その部屋を代表する伝統工芸が「駿河竹千筋細工」です。中でも、梅の飾り障子は、界 熱海プロジェクト担当スタッフがデザインを起こし、杉山氏が応えたもの。何度も試行錯誤を繰り返し、まったく新しい技法を生み出し、梅の間を象徴するここにしかないモチーフが完成しました。

界 熱海

相模湾を見渡す高台に佇む歴史ある本館と、海沿いのオーベルジュである別館からなる温泉旅館。伊豆山の自然と潮騒に抱かれながら季節の移ろいを感じるもてなしに触れ、源泉かけ流しの湯殿と絶景の湯上がり処で湯浴みを堪能し、心から寛ぐ時間を過ごすことができます。

http://kai-ryokan.jp/atami/