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星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 9 界 遠州 機織職人 松本隆司さん、番頭 大村博さん星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 9 界 遠州 機織職人 松本隆司さん、番頭 大村博さん

旅の魅力はその地域にあり
星野リゾートの施設の「個性」を担うのは、その土地を象徴するプロフェッショナル、職人さんや生産者さんの存在です。
彼らの仕事や目指すもの、発信力に着目し、日本各地の未知なる旅へとアプローチします。
文・さとうあきこ

受け継がれる温もりと職人力 産地発の古くて新しい「遠州綿紬」受け継がれる温もりと職人力 産地発の古くて新しい「遠州綿紬」

松本隆司さん

どこか懐かしい色合いや縞柄、優しい風合いが特長の「遠州綿紬」は、江戸時代から続く織物の歴史と技術を現在も受け継いでいます。松本さんは、機織を担う「松本織物」の代表。浜松市内で開業して80年余、祖父の代から続く工房で、昼夜を問わず織機に向き合っています。「機織の音」を子守唄代わりに半世紀近く、遠州綿紬ならではの織り上げ、品質維持に尽力しています。

    

大村 博さん

遠州綿紬の糸の発注から織り上がりまでを管理する「番頭さん」。松本さんをはじめ、各工程の職人さんとの連携を大切に、加工先への指示や得意先との商談なども担っています。現場の窓口として、遠州綿織物を企画販売する工房やショップとを繋ぐ存在でもあります。

    

「ものづくりのまち」の
歴史を物語る身近な織物

温暖な気候と豊かな自然に恵まれた遠州地方(現在の静岡県西部)は、かつて三河(愛知県東部)、泉州(大阪府南西部)と並ぶ良質な綿の三大産地として栄えた地。機織は、江戸時代に農家の冬仕事として始まったといわれ、畑で綿を育て、糸を引き出し、染めて、主に縦縞模様の木綿に織られ、野良着や生活着として地元に根付いていきました。明治以降、機織メーカーとして創業した現トヨタ自動車や、浜松に本社を構えるスズキ株式会社により、動力で機織を動かす力織機(りきしょっき)が登場。当時としては画期的な織機の導入により、「遠州綿紬」は昭和中期にかけ、各地へと広がり大いに繁栄しました。遠州は、二輪・四輪自動車メーカーの「ホンダ」や「スズキ」、楽器の「ヤマハ」や「カワイ」といった世界的な工業メーカー発祥の地としても知られています。こうした独自のものづくりを目指す人々の気概と風土から、高い技術を持つ職人が育つ土壌も培われ「遠州綿紬」の歴史を支えてきました。

非効率なシャトル織機に
こだわる理由

様々な色と縞柄、生地のやわらかな風合いが特長の「遠州綿紬」。この風合い、心地よい肌触りの決め手となるのが、シャトル織りという自動織機にあります。松本隆司さんの工房では、このシャトル織機が休みなく、1日14時間ほど稼動しています。織物は経(たて)糸に緯(よこ)糸を交差させて作りますが、シャトル織では、緯糸を内蔵したシャトル(杼(ひ)という船型の道具に糸を巻いたボビンを設置したもの)を、上下に開いた経糸の間を左右に通し、ゆっくり織り上げていきます。この緯糸に負荷をかけないゆとりが、素材を傷めず凹凸をつくり、空気に包まれたような温かみのある風合いを生み出します。今や自動織機の主流は、エアジェットやウォータージェットなど高速で生産量も高い無杼織機ですが、「遠州綿紬」には、時間をかけて丁寧に織り上げるシャトル織機が不可欠なのです。「シャトル織機は、手織りの織機に動力を付けたシンプルな構造なので、きちんと手入れすれば長く使える機械。それだけに、糸の調整、注油や掃除など細やかなメンテナンスには職人の目視や技術が必要です。ここでの仕事は織機そのものをいかに良い状態に保持するかに尽きます。」と松本さん。

職人の技術を磨き、
多様なニーズに応える分業生産

「遠州綿紬」では、糸から生地になるまで様々な工程を、この地域に分散するそれぞれの職人の手や目によってじっくり仕上げていきます。綿糸を巻き取る「かせ上げ」、糸を染める「染色」、糸を織りやすく整える「糊付け」、糸巻きへと仕上げる「管巻き」、縞の模様に糸を整える「整経」、縞柄通りに1本ずつ櫛状の穴に通す「経(へ)通し」といった、地道な工程を経て、松本さんらのもとで織り上がります。江戸時代から続くこの分業生産により、少ないロットや細かい依頼などにも対応でき、高品質で長く使用できる製品造りを可能にしてきました。さらに、各工程の進行状況を管理する「番頭さん」の存在も重要で、商品の企画、デザインや色糸の検討、加工の指示や商談など、職人たちそれぞれが専門に注力できる環境を整えています。

長く愛用したい日常を彩る上質感

海外のハイブランドや有名デザイナーにも採用されてきた「遠州綿紬」。近年は化学繊維や安価な輸入品の普及などで、生産量も減少傾向ではありますが、一方で、大量生産よりも付加価値の高い国産織物として、若い世代を中心に人気をよんでいます。「遠州縞」と呼ばれる昔ながらの柄に加え、日本をイメージする色や縞の新しい組み合わせ、微妙な色無地やモダンなチェックなどを展開。インテリアや店舗内装にも用いられ、改めて注目されています。「暮らしの中で、ちょっとした潤いや安らぎを感じられる綿紬なので、今後は、衣類や装飾品にもより親しんでいただけるよう、力を入れていきたい」と番頭の大村博さん。手間隙のかかる織物ながら、手頃な価格の製品も数多く、これも日常の上質を彩る「遠州綿紬」ならではの魅力です。

遠州綿紬ができるまで

私の愛用品

体の一部のように馴染んだエプロン

「この油じみは、いくら洗ってもとれなくてね」。松本さんがご自身で縫った前掛けです。毎日の作業開始とともに腰に巻かれ、かれこれ4~5年。経糸を機に乗せ換えする時の油じみや、織機のメンテナンスでつく汚れやホコリ、擦れも引き受けた生地は、しんなりとやわらかく松本さんの体に優しく沿います。大きなポケットの中には、糸の結びはしを切る握り鋏が入っています。

界 遠州で楽しむ
遠州綿紬

界 遠州では、今では希少となった浜松の伝統工芸「遠州綿紬」を全室を設えております。 ご当地部屋「遠州つむぎの間」で、遠州の魅力をより身近に感じていただけます。 江戸時代から浜松に伝わる織物「遠州綿紬」ですが、安価な外国製品に押され、今では限られた職人だけが作れる織物となりました。館内で遠州で活躍する職人の手しごとのぬくもりを感じ、ご当地感あふれる滞在をお楽しみください。

ご当地部屋:遠州つむぎの間

「界」では、滞在全体を通してご当地の魅力に触れていただくため、その地域で活躍する伝統工芸の作家とコラボレーションした「ご当地部屋」をご用意しています。界 遠州では、現在では希少となった遠州綿紬をプロデュースする「ぬくもり工房」の方々の協力のもと、ご当地部屋「遠州つむぎの間」が誕生しました。障子やランプシェード、クッションなど、ぬくもりあふれるアイテムを揃えました。色鮮やかでどこか懐かしさを感じる遠州綿紬の魅力をぜひご体験ください。

美茶楽ラウンジ

トラベルライブラリー内の「美茶楽ラウンジ」は、小上がりの床座スタイルで、靴を脱いでリラックスできます。また、浜名湖と「つむぎ茶畑」を眺められ、季節感あふれる大パノラマとともに、くつろぎのひとときを過ごせます。

界のご当地風鈴オーケストラ

「遠州綿紬」を短冊に使用した風鈴を設えた湯涼みスポットが登場します。風鈴が奏でる音色に涼を感じる特別な湯上がりを楽しめます。

期間:2023年6月1日~8月31日

界 遠州

全室から浜名湖を望む温泉旅館。浜松伝統の遠州綿紬の設えを施したご当地ならでは客室や趣の異なる二つの大浴場、浜名湖名物のウナギをはじめ、旬の食材をふんだんに使った会席料理をご用意。毎夕開催のお茶会など、静岡ならではのお茶のおもてなしも魅力です。

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaienshu/