Vol.11号店は東京の下町に
小工場風の建物。
そこで働く人たちに、平和を感じました

星野:
はじめまして。
ジェームス:
はじめまして。お声がけありがとうございます。
今回はすごい偶然があったんですよ。
実は前回来日した時に、「星のや京都」に泊まったのです。滞在はとても快適で、秘書に「素晴らしいよ。これを運営している人に会って話をする機会があったらいいなあ。どうやって会社を設立したのか、どう運営しているのか、話を聞いてみたい」と言ったのです。
その話をした4時間後に彼女は星野リゾートから連絡をいただいたんだそうです。びっくりしましたね。
星野:
そうだったんですね。それはすてきな偶然です。星野リゾートは100年の歴史があるんです。曽祖父が始めました。私で4代目です。京都の他に現在33カ所で施設運営をしています。
ジェームス:
それは、全てを訪問したいですね。
星野:
ありがとうございます。私はこのブルーボトルコーヒー日本第1号店には、スキーの前に立ち寄った事があるんですよね。私の趣味はスキーでして。年間60日スキーをします。
ジェームス:
リゾートの計画を建てるのが、実は趣味なんじゃないですか?(笑)
星野:
確かに(笑)。新幹線の時間まで1時間半あったので、こちらにお邪魔して、コーヒーを頂いて、東京駅までタクシーで行きました。
ジェームス:
そうでしたか。楽しんで頂けましたか。

今日のコーヒーはアイスでニカラグワ。クリアな味わい。今日のコーヒーはアイスでニカラグワ。クリアな味わい。

星野:
実によい雰囲気を楽しみました。お聞きしたかったのですが、なぜこちらの場所を選ばれましたか?
ジェームス:
それは皆さん、知りたがりますね。
星野:
ブルーボトルコーヒーを知っている日本人の誰もが聞きたがる重要なことのひとつだと思います。レアすぎる場所なので。一般的には、青山や新宿を選ぶと思うのですが。
ジェームス:
実は日本で育った友人がいて、候補地を探すのに手伝ってもらいました。
この建物はもともと倉庫でした。銀座に1,000フィートの広さの物件は現実的には有り得ないですから、友人に相談しました。
私の希望は、焙煎工場は市街地から遠くない場所に欲しかったのです。友人は清澄白河を「ちょっと古い街で興味深い」と言って、公園などの写真を見せてくれました。その中で「倉庫がいけるかもしれない」とのことで、こちらまで伺ってみて、近所を散歩してどんな感じの雰囲気なのかを見たり、素敵なランチを食べたり、庭園を散歩したりしましたね。街自体もとても気に入りました。
それに小工場風の建物とか工場で働く様とか、それが気に入ったんですよね、なんだか平和な感じがしました。そしてこの建物もとても興味深かったんです。
建築家と2回目のミーテイングをして、この建物をどう魅力的に改装できるか考え、2階から1階が見える吹き抜けを設けました。
まさかこんなに繁盛するとは想像もしなかったです。もともとの想いとしては「場所的に便利だし、他の場所にカフェをオープンしても配達にも便利だ。じゃあ、小売店も入れて、人がやってくるかどうかを試してみよう」というスタートでした。しかしながら、青山同様、いや、それ以上に人が集まるところとなったのです。
星野:
この地域ではブルーボトルコーヒーがとても有名になりましたね。

清澄白河の店舗はもともと工場。天井が高く気持ちがいい。エレベーターのあった部分をスケルトンにして、店舗の様子が2階オフィスからも分かる清澄白河の店舗はもともと工場。天井が高く気持ちがいい。エレベーターのあった部分をスケルトンにして、店舗の様子が2階オフィスからも分かる

ジェームス:
そうなんですよ。日本の代表は近所の人達と知り合うのにとても努力をしてくれました。
たとえば小さな地図を作って、うちの焙煎所の他に他のコーヒー店やランチが食べれる所、公園を記したりして、この地域の人たちだけでなく、街に訪れる人がより多く関心をもってくれるようにがんばってくれましたね。
星野:
以前ここに来た時、多くの人々が建物の写真を撮っていましたね。観光スポットのひとつにすでになっていますよね。

スターバックスの登場で
巨大に育ったコーヒーマーケット。
そこから生まれた意外な市場をすくいあげる

星野:
会社を始められたのは何年ですか。
ジェームス:
2002年にスタートさせました。フェリー・ビルディングに移動したのが2004年です。
星野:
2004年?なるほど。そんなに昔の話ではないですね。
ジェームス:
はい、4代目ではありません(笑)。
星野:
ある意味。とても急成長されたのですね。
ジェームス:
随分と昔の事の様な気がしますがね。
星野:
10年ですね。
ジェームス:
はい。いろいろラッキーでした。
星野:
ジェームスさんは、どうしてコーヒーがビジネスになると思ったのでしょうか?どんなきっかけがあったんですか?
ジェームス:
私はもともと音楽をやっていました。だが、クラリネット奏者としてはなんとか生きてはいけるけれど、仕事を選べるほどではなかった。だから、ファーマーズマーケットでコーヒーを淹れる事によってどうにか生計を立てられたらなと思ったのです。たったそれだけのことです。ただの希望でした。
星野:
なるほど。
ジェームス:
余分なお金は全くもっていませんでした。強固なビジネスプランもありませんでした。サンフランシスコでは、自宅でベーキングシートを使ってコーヒーを焙煎していました。私自身、フレッシュなコーヒーを飲むというのを大事にしていたのですが、焙煎したてのコーヒーを買えなかったんですよ。
星野:
なるほど。
ジェームス:
それでひらめいたんです。最少の投資でした、自分で何もかもやってね。
星野:
競合が多すぎ、スターバックスが多すぎ。そんなことは考えなかったのですね。
ジェームス:
それがよかったんです。私には、私がやってはいけないことすら判っていなかったのです(笑)。
星野:
でも、多くのビジネス論に反してはいますが、ブルーボトルは拡張し、マーケットを獲得していますよね。それは味の違いが判り、理解しているマーケットがあったからということですか?
ジェームス:
はい、スターバックスがそのマーケットを創ってくれました。私には数字はわかりませんが、1,000人に1人、10,000人に1人は、「今飲んでいるコーヒー以外にどんなものがあるのか?」と他のコーヒーに興味を持ちます。「コーヒーについてもっと知りたい」「もっと違うコーヒーも体験してみたい」と味やブランドにこだわる消費者となるのです。スターバックスはそういったマーケットを創り出したのです。だから我々は成功出来たのだと思います。ところが当のスターバックスも、2000万ドルを投資して巨大な焙煎所併設の新しい施設をシアトルに作りました。東京にも1軒作ることが発表されたそうですね。
「Reserve Roastery and Tasting Room」という店舗ですね。
星野:
東京にそんな巨大な店を作るのですか? それはどんな店なんでしょう。
ジェームス:
階下の焙煎所を見ていただければ判ると思うのですけど、スペシャリティコーヒーの業者がやっていることを見て「我々も同じような事やらなきゃ」と思ったのかもしれません。
そしてシングルオリジンのエスプレッソの提供を始めたり、サイフォンコーヒーやドリップコーヒーも出し始めたりしました。
コーヒーの未来を考えるというより、私や私のコーヒー仲間達がやってきたことに追いつこうとしています。それは一朝一夕には出来ない事です。ですから、東京でどうなるのかがとても興味深いですが、いづれにしても我々の揺るぎない思いを再認識させるような事になると思います。
星野:
面白いですね。ビジネス論の一つに「もしあなたが自分の事をニッチだと思うのならばニッチのマーケットが成長している。だから自分が成長していて成長が早すぎる場合には、その市場のリーダーは同じビジネスを展開すべきだ」というのがあるんです。
もしかしたらそれを辿っているのかもしれませんが、いずれにしてもアプローチとしてスターバックスの行動は興味深いですね。
ジェームス:
スターバックスは現在23,000店舗を持っているのですが、そこから生まれ出る「よりよい物、他に興味を持つ人」を受け入れるだけでも、もの凄い数なんですよ。
星野:
ブルーボトルコーヒーは、何店舗ありますか?
ジェームス:
アメリカに合計21店舗、東京に2店舗です。
星野:
ほとんどが西海岸にあるのですか?
ジェームス:
サンフランシスコ、ロスアンゼルス、ニューヨークに7店舗、東京に2店舗あります。だから年内中に10店舗を、来年中にオープンさせる予定です。

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太