Vol.1情緒ではなく、環境保全を
経済として成立させたい。

加藤:
初めまして、ではないですよね。
星野:
10年以上前になりますが、環境省主催のエコ・ツーリズム推進協議会で一度お会いしています。その時の加藤さんの主張が僕にはすごく印象的だったんですよ。すごく強い主張をなさっていて、僕も加藤さんのことを応援しました。
加藤:
あそこで喋ったことは今でも覚えてます。
 あの会議は残念な結果に終わりましたね。エコ・ツーリズムへの取り組みについて、民間も交えて議論しつつ、最後に「エコ・ツーリズム宣言を作る」という名目だったんだけど、結局宣言の内容は会議の前に決まっていて、私たちの議論は政府の案を通すための口実にされてしまったにすぎなかった。
 当日の資料には「うっとりと空を見ると星空」みたいな文言があったけど、そんな温泉旅館のキャッチコピーみたいなものを書いてる場合じゃない(笑)。環境保全に協力する意識を旅行者に持ってもらうことを前面に押し出さなきゃいけないのに。
星野:
「エコ・ツーリズム」とはもともと、観光地で得られる収益の一部を観光地の自然環境保全に回すことを目的として作られた言葉なんです。お客さんがたくさん来てくれれば、観光資源をきれいなまま保つことができる。すると、お客さんはもっと増えるし、保全費も多くなって、観光地はもっと魅力的になる。「エコ・ツーリズム」は、そのような経済の循環を生み出す仕組みで成り立っていることを、もっと明確にした方がよかったんです。
 でも結局、環境省の宣言は、抽象的、情緒的な内容になってしまっていました。
加藤:
もっと言えば、環境省、つまり政府がやるべきことは、旅行先でごみをポイ捨てすることなどに対する”規制”を作るべきなんです。自然に親しもうと思って観光に来た人が、結局自然を破壊して帰るのが問題なのであって、ただ自然に触れることを呼びかけても、ゴミが増えるだけですから。
星野:
その通りです。「エコ・ツーリズム」は、ただ単に自然観光の表面だけを見て、きれいだねと言って終わる旅ではないですよね。
 ガイドの人を育成して、どのような仕組みでこの自然環境が成り立っているのか、旅行者にちゃんと説明する必要がある。もちろん、ガイドの育成費や環境の研究費も、エコ・ツーリズムの収益から出る仕組みも必要です。

情緒ではなく、環境保全を経済として成立させたい。

加藤:
オーストラリアやアメリカ、ヨーロッパのような国で、環境保全活動をしている人達は、お金を使って環境保全活動をしていることを堂々とアピールしている。それは時として偉そうに見えるんだけど、結局そういったスタンスが旅行者に受けてるんですよ。日本では、お金を使って行うエコ活動が何となく悪いことだと思われているふしがあって、規模が大きくならないんですよね。もっと堂々とやればいいのに。
星野:
環境保全にお金が回っている分、贅沢な旅行ができないんじゃないかという疑いを日本人は持ってしまうのかもしれません。そんなことはないということも、あのエコ・ツーリズム宣言に記されるべきでした。
加藤:
実は、私も前から星野さんとはお会いしたいと思っていたんです。どんな人か自分の目で確かめてみたかった(笑)。リゾート運営の天才の実像をね!エコ・ツーリズムについて、同じ思いを持ってることがわかって、良かったです。
星野:
あの会議があったから、僕は今回加藤さんと対談したいと思ったんです。加藤さんのTwitter(@TokikoKato)も拝見していますが、実に色んな場所を旅しておられますよね。そういったご自身の旅の経験を反映していたからこそ、あんな強烈な意見をおっしゃることができたんだろうと感じます。今日は、加藤さんに旅の話を聞いてみようと思いまして。

構成: 森 綾
撮影: 山口宏之

『一流の女が私だけに教えてくれたこと』

お知らせ

このコーナーを構成している森綾さんの著書が発売。今回のゲスト加藤登紀子さんも登場しています。
6月6日発売 『一流の女が私だけに教えてくれたこと』 マガジンハウス刊、1200円

2000人以上のインタビュー歴をもつ森綾さんが、選りすぐりの28人の素敵な女性たちから、何を学んだか。そして、彼女たちの「磨かれた生き方」に近づくためにどうしたらいいかを書いたエッセイ。
鈴木保奈美さん、黒木瞳さん、安田成美さん、加藤登紀子さん、山本容子さん、山田詠美さんといった素敵な女性たちの知られざる素顔ものぞけるエピソードが満載。