日本の「天然の雪」は、
世界と比べても素晴らしいんです。
その事に気づいて、もっと楽しんでほしい。

日本の「天然の雪」は、世界と比べても素晴らしいんです。その事に気づいて、もっと楽しんでほしい。

星野:
お忙しいところ、時間を作っていただきありがとうございます。僕は経営者仲間では一番スキーをしていて、年間60日滑るんですよ。これだけでも結構大変なチャレンジで、冬の出張でも雪降ってないところには行きたくないし、日程を調整しないと達成できない。今日はプロスキーヤーである皆川さんにできるだけ多く滑るためのノウハウをまず聞こうと思っていたんです(笑)。皆川さんは年間何日くらい滑ってらっしゃるんですか?
皆川:
大体250日位滑っています。3歳からスキーを始めて、小学校5年生から今の生活が始まりました。

星野:
年間250日はすごいですね。しかし、日本だけだと年間250日は絶対滑れないですよね。日本で滑るのは何日くらいになるんですか?
皆川:
全体の1割くらいだと思うので、数十日だと思います。
星野:
じゃあ、基本的にレースなどで転戦しながら、ヨーロッパやアメリカを回っていらっしゃるんですね。レースのシーズンが終わるのって何月なんですか?
皆川:
11月に始まって、3月の下旬で終わりですね。基本的に4月以降はオフに入って、4月は日本で滑ってから、5月は滑らずに、日本でトレーニングをして、6月くらいからヨーロッパで1ヶ月半くらい滑ります。
星野:
6~7月だと、ヨーロッパでは氷河スキーになるんですか? オーストリアが有名ですけど。
皆川:
ヨーロッパはその時期でも雪が残っているところがあるので、氷河でなくても滑れるところはあるんです。ただ、国としてはやっぱりオーストリアやスイスで滑ることが多いですね。インタートゥクサー(オーストリアのスキーの名所)とか。7月の中旬以降は日本に帰って少し休んで、そこからはニュージーランドのクイーンズタウンで約1ヶ月半、大体9月に入るくらいまで滑ります。9月一杯は日本にいて、10月の頭からはヨーロッパですね。
星野:
年間を通して、雪が豊富なところを点々とするわけですよね。そうすると、トップスキーヤーが回る国のルートはだいたい決まってくるんですか?
皆川:
そうですね。アルペンスキーヤーがレースをするゲレンデって、ほぼ氷に近いような状態なんですよ。わざと水を撒いて雪を固めてから試合をするんです。だから、練習でも同じような環境を要求できるような場所って、どうしても限られてしまって。大体の選手はみんな同じ国に行くので、お互い身内のようになるんです。だからあえて、ニュージーランドをやめてアルゼンチンを選んだりする選手もいます。特に、南半球は北半球に比べて滑れる場所が限定されるので、結構場所の取り合いになりますね。
星野:
皆川さんが今までおっしゃった国は大体僕も行ったことあるんですが、南米だけは行ったことがないんですよ。南米のゲレンデってどんな感じなんですか?
皆川:
雪質は割と、ニュージーランドや中国に近いかもしれないですね。天然の雪はあまり降らないので、降雪機で作られた雪の感じです。ただ、南米は、山に木があまりないのでコースがすごく広いんですよ。だから、山全体をコースとして使えたりします。特にアルゼンチンはスキーヤーに人気がありますね。あそこは、リゾートとしてもよく整備されていますし。
星野:
すごいな、是非行ってみたいですね。皆川さんもアルゼンチンに行かれたことはあるんですか?
皆川:
実は僕は行ったことがなくて。南米だと、今年チリには行きました。1日だけゲレンデを視察に行って、とても良かったので来年は本格的に滑りにいこうかなと思っています。何ヶ所かスキーリゾートがあるんですけど、雰囲気が他にない感じで、気に入っています。風土が変わるとスキー場の空気感も変わるのは面白いなあと思います。

日本の「天然の雪」は、世界と比べても素晴らしいんです。その事に気づいて、もっと楽しんでほしい。

星野:
ヨーロッパの国々は文化圏が同じですからね。様々な国に行く上で、ゲレンデ以外にも注目するところってありますか?
皆川:
基本的にずっとホテル住まいなので、ホテル選びは重要になりますね。日本チームとして、集団で練習している場合、基本的にあまり良いホテルには泊まれないんですけど、休みの日に備えて、別のホテルを僕個人でネットで予約しておくんです。休日は、そういう自分が泊まりたいホテルでリフレッシュして、またチーム練習に戻ります。やっぱり何ヶ月も向こうにいるのは辛いので、そういうことが楽しみだったりしますね。

ヨーロッパの家族の冬レジャーは、
スキー観戦にゲレンデ遊び。
だから子どもの頃からスキーが大好きに。

星野:
ホテルとかリゾートの話に行く前に、僕も将来、日本からアルペンスキーの世界的なプレーヤーがたくさん出るためにやれることはやりたいと思っているんですが、強豪国と日本の差はどういった部分にあるんでしょうか。
皆川:
スキー競技を取り巻く環境面がやっぱりちがうんだと思います。実は、アルペンはウィンター種目の中で競技人口が圧倒的に多くて。だからアルペンって、陸上で言うと100mのような、花形の競技として世界では認知されているんですよ。ヨーロッパのレースにはお客さんも一杯来ますし、トッププレーヤーの報酬もいい。そうやって競技だけに集中できている選手が多い種目はレベルもとても高くなります。でも、アルペンは日本ではそこまで認知されてないので、全ての面において競技環境が不十分なんです。例えば日本のコースは安全のために、山を削って、コースの角度を平らにしてしまいますけど、海外は山の地形をそのまま使うので、難易度の高い、つまりアルペンのレース環境に近いコースができる。また雪質も海外の方がレース環境に近い。そういうコースで練習すると、狙う角度だったり、そういう細かい部分のシュミレートが正確に出来るんです。
星野:
具体的にはどういうところから改善していけばいいのでしょう。何かアイディアがあればお聞きしたいです。
皆川:
まず、日本でも観客が見てくれるスポーツに変えなきゃいけないと思います。大会を興行として開催して、そこにお金が発生すれば協会にも還元できますし、結果的に選手の練習環境も豊かになります。そのためには、選手側もプロ意識を持って、パフォーマーとして振る舞ってもらう必要もあります。

皆川さんとはスキーを通じて以前より交流があった星野。写真は2006年の春福島県のアルツ磐梯にて。皆川さんとはスキーを通じて以前より交流があった星野。
写真は2006年の春福島県のアルツ磐梯にて。

星野:
やはり、人に見に来てもらって、その人達から収入を得られる体制を作らないとダメなんですね。
皆川:
ジュニアを育成するためのお金が必要で、そういう意味では、アメリカの仕組みがとてもいいなあと思っていますね。
 アメリカでは、Jリーグのように、スキー競技連盟が国からまず独立していて、寄附制度とマーケティングでお金を引っ張ってきているんです。ただアメリカでも、アルペンは、観客が日常的に見に来るスポーツにはまだなっていませんが。
星野:
アメリカのスキー協会は、どこから寄附を得ているんですか?

皆川:
民間のスキー場です。更に、そのスキー場で大会を行って、その利益を選手にも還元できる仕組みも備わっています。
星野:
なるほど。スキー場側は、選手に寄附することを、スキー人口を増やすための投資と考えているわけですね。スターが生まれて、有名になれば、新たにスキーを始める人も増えるだろうと。そういう、長期的にスキー人口を増やしていくための循環は、日本にも起こしたいですね。ヨーロッパではどうしてレースに観客がくるんでしょう。何か興行側に工夫があるんでしょうか。やっぱりテレビ放送の影響も大きいのかな。
皆川:
テレビの影響もあると思いますけど、ヨーロッパの家庭では、観光とスキーというのがワンパックになっているのが、スキーが大好きになる一番の要因だと思います。観光に行くと同時にスキーのレースというイベントを楽しむ、という習慣があるんですよね。興行側が特別な工夫をしているわけではないですから。
星野:
お祭りのように、レース観戦を楽しんでいるわけですね。

ヨーロッパの家族の冬レジャーは、スキー観戦にゲレンデ遊び。だから子どもの頃からスキーが大好きに。

皆川:
お客さんに目当ての選手がいたとしても、選手はたった1分間のレースを2本しかしないですよね(笑)。それでも、毎年あんなに盛り上がるってことは、場としての魅力がちゃんとあるからだと思うんです。
 そういう点で言うと、日本のスキー場って観光の場としては非常にいいと思います。天然の雪が大量に降るので。実は、しんしんと降る雪の風景、なんて世界中にほぼないんです。ああいう大粒の雪が降る場所というのは、日本とヨーロッパくらいで。そういう点では恵まれていると思いますね。かつてのスキーブームはバブルと一緒に倒れてしまいましたが、うまく環境を整えてプロモーションすれば、世界中から日本のスキー場が注目され得るんじゃないでしょうか。

「天然の雪」って、
石油くらいの価値が
あるかもしれませんね。

星野:
天然の雪って資源ですよね。雪が降らない国、例えば台湾やタイなどのお客さんが、日本に来てくれてますから。しかも彼らは、3年前くらいから雪を見るだけじゃなくて、ウィンタースポーツをするようになってきている。だから、僕らの目下の悩みは中国語ができるインストラクターがいないということで。
皆川:
それはなかなかいないでしょうね。
星野:
でも逆に言えばそれだけ、アジアから人が来ているということですし、何せアジアは人口が多いですからこれからもっと増えていく可能性も大いにあります。雪がお金を生み出しているんですよね。日本の雪には中東の石油くらいの価値があるかもしれないって僕はよく言うんです。
皆川:
例えば中国では、今どんどんスキー場ができてるんですけど、中国のスキーの選手が上手になって、より良い練習環境を求めようとしても、やっぱり自国では足りないんですよね。スキー場の質も雪質も。

「天然の雪」って、石油くらいの価値があるかもしれませんね。

星野:
一方で、国内に目を向けると、いまはスキーを真剣にやっていた世代が40代~50代になってちゃんとお金を持つようになってきていますよね。レジャーとしてのスキーを楽しむ場所はまだ残っているから、あとは彼らをどうやって再びスキー場に呼び戻すか、です。彼らはみんな、スキーをするのは寒いし、年取って滑れる自信がないってよく言うんですよ。でも、今は昔に比べてスキー板やウェアといった道具がものすごく進歩していますよね。特にここ10~15年の間に。

皆川:
今の道具は圧倒的に進化していますね。昔スキーをやっていた人が、今のスキー板やブーツを使えば、昔のレベルを飛び越えて、昔の自分が理想としていたレベルまで一気にジャンプアップできるんじゃないでしょうか。
星野:
そこのところをもう少し上手くプレゼンテーションできれば、お客さんも戻ってくると思うんですけどね。
皆川:
まずスキーをする時間も必要ですね。僕は日本人の休みの取り方を変えた方がいいと思っていて。日本にはヨーロッパのような長期休暇はほとんどないですよね。そうなると、基本的には土日の2日間しかリゾートに行くタイミングはありません。そうなると日程的に休日はやたら混んで、平日はお客さんが全く入らないという状況になってしまいます。
星野:
確かに、日本の雪のシーズンが12月~3月ということを考えたとき、その期間で大型の休みっていうと、お正月だけですね。フランスなんかは2月に冬休みが入っていて、国を3セクションに分けて、それぞれ2週間ずつずらして休みを取っていますね。だからスキー場が混まない。
皆川:
あれはすごいシステムですよね。

「天然の雪」って、石油くらいの価値があるかもしれませんね。

星野:
彼らは95年くらいからその休暇を作っているんだけど、何でそういう仕組みが政治的にも社会的にもすんなりと受け入れられるんだと聞いたら、「日本人は仕事をするために休んでいるだろう。俺たちは休むために仕事をしているんだ。」と言われて。彼らは、休暇のためなら仕事のスタイルも変えられる。僕たちもそうならなきゃいけないのかもしれないですね。皆川さんのおっしゃる通り、例えば休みの取り方がフランスみたいに大型になったとしたら、私たちリゾート事業者もできることが変わってきます。

皆川:
向こうのホテルは大型休暇があるおかげで、お客さんが安定して入るので設備投資も盛んです。古くなった設備をどんどん変えていったりできるから、お客さんが飽きないような環境づくりのサイクルができています。日本だったら、改装するってだけでも、事業者が人生投げ打つくらいの覚悟を持たなきゃいけないケースも多いです。
星野:
僕は、分散休暇を2004年から提唱していて、官公庁の議案にまではなったんですけど、審査で止まっちゃってそのままになってるんですよね。
皆川:
そこは結構重要じゃないかと思うんですけどね。僕らがやってるスキーというスポーツは、お金じゃない豊かさを提供できると思うんですよ。年取ってもやれるとか、人間の精神的な部分に貢献できる。でも、ある程度まとまった休みがきちんと取れなければ、そういったことを楽しめる余裕も、人は持てなくなってしまいます。そこはヨーロッパと圧倒的に違う所だと思います。
星野:
海外の人は年をとってもスキーを続けていられる理由もそのあたりにあるのでしょうか。
皆川:
そう思います。向こうでは、スキーが2世代、3世代で共有できるようなレジャースポーツ、という位置づけになっているんですが、複数の世代が集まれる休日を調整して作れるからこそ、そういうスポーツの楽しみ方も生み出せるんです。家族で5日間くらいスキー場にいるんだよねって彼らが言って、僕がそれに感心していると、不思議な顔をされます。そりゃ当たり前だろう、と。 あともうひとつ、プロフェッショナルな競技、日常的にレースを観戦するような競技として認知されているから、プロを目指そうとする人が多く、必然的に参入人口も増えるという面もあると思います。レジャーとしてのスキーにしても、競技としてのスキーにしても、将来的なロールモデルがちゃんと提案されているんです。

「天然の雪」って、石油くらいの価値があるかもしれませんね。

星野:
皆川さんは、あとどのくらい現役として活動されるつもりなんでしょう。今までオリンピックには何回出たんですか?
皆川:
今までに4回出ています。
星野:
そんなプレーヤーは滅多にいないんじゃないですか。
皆川:
ウィンターでは中々いないかもしれないですね。でも、そういう経験は精神力の肥やしになると思うので、次のステージで新しいことにトライするときも活かされるんじゃないかと。

星野:
これからの活動にも期待しています。世界中のスキー場を見てきたからわかりますが、スキー業界の中で皆川さんが持っている価値って凄く大きいと思うんですよ。だから僕としては、スキー業界全体に貢献してほしいと思ってるんです。特定のメーカーと一緒にならないでほしいというか(笑)。やっぱり、やれることのスケールを大きくもっていてもらいたいんですね。
皆川:
ありがとうございます。
星野:
日本のアルペン界が一丸となって大きなビジョンを共有し、次の世界を変えてください。期待しています。

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太

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