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ヤフー株式会社CSO 安宅和人 × 星野リゾート 星野佳路

AIは、僕たちのFun Timeを
どんどん増やしてくれる

安宅和人

あたか・かずと ヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサー(CSO)。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経化学プログラムを入学。博士号取得後の2001年末、ポスドクを経て帰国しマッキンゼーに復帰。2008年9月ヤフーへ、COO室長、事業戦略統括本部長を経て2012年7月より現職。事業戦略課題の解決、大型提携案件の推進、市場インサイト部門、ヤフービッグデータレポート、ビッグデータ戦略などを担当。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版)、『知性の核心は知覚にある』(ダイヤモンド社)などがある。

Vol.1 AI vs. ヒトではない。AIは
僕たちを楽にしてくれるもの

星野

安宅さんの著書を読ませてもらいましたが、私にはちょっと難しくて完全に理解したとは言いがたいですね。ただ全体的な印象としては、AIってなかなかすごそうだけれど、ビクビクすることもないのではないかと思いました。
それを前提に、ではAIの役割はなんなんだろう、ということをお聞きしたいです。

安宅

まあ、使い倒せばいいんですよ(笑)。

星野

使い倒せるものなのですか?

安宅

今のところ、ただの道具なので。そして当面、道具だと思います。

星野

当面というのは、どれぐらいの期間でしょう。

安宅

まあ10年ぐらいでしょうか。

星野

それぐらいですか?

安宅

20年後はよくわからないです。AIがというよりも、世界全体がどのような時代になっているのかが、予測不可能です。だからよくわからないとしか言いようがありません。

星野

それぐらい、世の中のすべてが変化する可能性があるということですね。

安宅

はい。事実、10年ぐらい前まではスマホはなかったわけです。今、世の中のコンピューターの8割がスマホです。10年後はまた全く違うツールがメインになる世界が来ているかもしれません。

星野

10年後はまだ仕事しているかもしれないからな……。対応できるようにしておかないと。私にとっては難しいけれど、それを勉強しなきゃいけないという強迫観念はありますね。

安宅さんの趣味は、写真。特に会った人のポートレート撮影はライフワークだとか。対談当日も序盤から星野を激写!!

安宅さんの趣味は、写真。特に会った人のポートレート撮影はライフワークだとか。対談当日も序盤から星野を激写!!

安宅

AIなどと言うと分かりにくいですが、ようは「情報をさばくキカイ」です。今コンピューターとアルゴリズムとデータを組み合わせると多くの情報処理的な作業が自動的にできるんですね。その中でもAI、機械が得意とする分野があります。

一つ目は画像や映像の識別。たとえば読唇、リップリーディングのようなことは、AIは人間より遥かに優秀です。プロのリップリーダーでも50%くらいしか読み取れないところを、96%ぐらいまで判読します。圧倒的な精度です。中国のある会社は、中国の警察や公安の顔写真データを全部持っていて、その会社のAIは画像のみで双子までも見分けるのです。

星野

ほう。識別能力が圧倒的に高いのですね。

安宅

はい。たとえば皮膚ガンの検診の精度も、2017年2月に最高レベルの医師を越えてしまっています。

参考)
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/012505960/?ST=health
http://www.nature.com/articles/nature21056.epdf

十分な帯域と計算力があれば、地球の地表の画像をリアルタイムで読み込ませて、今どこで何が起きているのかを一気にスキャンすることなどもできます。

二つ目は、近未来の予測能力です。5,000万人とかのデータを並行して読み込み、それぞれの人がどこに向かおうとしているか、何をしようとしているかをデータとAIの力で予測することも可能になってきています。360度ミリ波レーダーを用いてこの車とこの車はぶつかるというような予測をして、事故を回避することも可能で、既に実装されたクルマもあります。このように適切なデータの取り込みがあればAIは驚異的なリアルタイム予測能力を発揮します。

三つ目は作業能力です。人間が行う手作業というものを機械に教えるのはこれまで非常に難しかったのです。例えば何かを持ち上げるにしても、高さ、重心、どこを持ち上げればいいか、どのくらいの強さで持ったらいいか。そういうことはパターンが多すぎて教えることができなかったのですが、今はうまく行ったら褒めるというようなやり方で、キカイ側の試行錯誤から学ばせることが可能になりました。結果、形式化できない知恵、すなわち暗黙知を機械に取り入れさせることが可能になり、かなりの作業の自動化に成功しています。

星野

識別、予測、実行が自動化されているということですね。それだけできれば人間以上に働くことができるのではないですか?

安宅

そうですね。それらが応用できるところについては確かにそうです。ただし、そこには人間が普通に考えている「知性」の多くがないのです。それでも、識別、予測、実行の自動化によって、判断を伴うような運転、倉庫でピッキングする作業のようなものまで、すでにAIができるようになっています。

星野

今まで人間がしていた作業を徐々にAIが担えるようになっているのですね。

安宅

はい。今まで人間の作業として残っていた識別、予測、ハンドリング = 手作業を担えるようになってきました。

AIに意思はありません。
意味を与えるのは生命体である人です。

星野

ネットのニュースで見ましたが、AIが小説を書いたり、曲を作ったりもできるようになったようですね。

安宅

はい。生成系AIといわれているものです。これは私の論文には間に合わなくて書かなかったのですが。

ニュースでご覧になったかもしれませんが、ビートルズの曲を何百曲と読み込ませると、ビートルズっぽい曲が作れてしまうんですよね。また、筑波大学にいる落合陽一さんの試みですが、彼の大好きなデザイナーの山本耀司さんの服の画像を山のように入れて読み込ませると、山本耀司さん本人をして「これ自分のデザインじゃないの?笑」と言わしめるほどの山本テイストを教え込むことが可能になっているんです。

そこまでAIができてしまうということは、クリエーターの仕事が根本的に変わる可能性があります。若いうちにデザインや歌をある程度作って、自分のデータをすべてインプットして、最後に自身で少し一捻りすれば、できちゃうわけです。これは俺のデザインだ、俺の曲だということになる可能性があります。クリエーターの仕事の仕方やライフプランが根底から変わる可能性があると言うか。

この3(識別、予測、実行)+1(生成)で、今までキカイに教えてもできなかったことができるようになった。と、いうわけで「AIやべえ。こえぇ!」となったわけです(笑)。

今AI関連で起きて、騒がれているものは、基本すべてこの4つの能力の組み合わせです。

確かにこれらはかなりのパワーです。ただ、怖がらずにこのような事が可能になったということを前提に、我らが作りたい未来、そのための機能を実現していけばいいんです。キカイの自由度が「激!上がってる!」ということなのです。

AI初心者の星野は、AIの可能性がどうしても脅威に感じていたようだ。スペシャリスト安宅さんに初心者なりのギモンをぶつける。

AI初心者の星野は、AIの可能性がどうしても脅威に感じていたようだ。スペシャリスト安宅さんに初心者なりのギモンをぶつける。

星野

その3+1=4が、5になり10になりということはあるのですか? AIは、まだまだそれ以上のことをできるようになるのですか。

安宅

もちろんありえます。が、それ以上のことは、まあ、当面はないかも。

AIの限界は結局、「我々のようには意味の理解をしない」ということです。情報の識別であるとか予測とか翻訳とかは見事にできても、やっていることが何なのかは、何も理解しない。ベーシックなことをいえば色すらわかってないですから、彼らは。「彼ら」というのも変だな、キカイなので。

誤解されがちですが、色とか肌触りというのは物理量ではありません。人間ひとりひとりが感じるしかないわけです。AIと僕らが呼んでいるキカイは、外部からの入力について、我々のような意味理解が全くないまま作業を行います。

それらの外からの入力やキカイの出力を気持ちいいとか美しいとか不快とか感じるのは、生命体である我々の仕事です。

もう1つの限界としてAIには意思がありません。たとえばある山を見て、元気が湧いてきて、この山を登ろうとか、険しすぎるから帰ろうとか思うことはありません。もちろん判断基準を与えれば判断しますが、それはAIの意思ではありません。一方、生命体というのは、大腸菌ですら生き残るための意思を持っています。おいしいエサをつかまえようとか、ここはヤバいと思ったら逃げていく。生命体というのは、本質的に生存本能からの意思がありますが、現在のAIの処理力増大の延長に意思が生まれるということはないのです。

ただし、人工生命というものが研究されているので、その様なロジックを注入すれば、AIに意思は発生するかもしれませんが。いま我々が議論しているAIだけでは、ただのキカイなのです。

星野

ちょっと安心しました(笑)。例えば経営者の仕事は意思が大事ですから。私は酔っ払いは嫌いだから、宴会はやらないとか……それは経営者の意思だから。どんなに儲かっても宴会はやらない、という(笑)。

安宅

それは意思です。安心してください(笑)。さらに言うと、定型化されていない分析や結果の見立てなどが自動化されるというのは少し疑問があります。残念ながら無心にやれば出来る仕事ではなく、多くの人が嫌な仕事に限って残る可能性がけっこう高いのです。

私は長らく分析を実践するだけでなく、教えていますが、分析というのは8割がた「問題設定」とそれに沿った軸の見立て、必要データの見立てや入手・整形です。そこで分析の価値が決まってしまうので、そこに意思、意味理解をなくしてはできないものです。そこから後の雑作業は自動化できると思いますが、どういう事を言うためにどういう軸で判断しようかというのは、人間が設定する必要がありますね。

星野

確かに。私の場合、分析はおおいに恣意的であったりしますね(笑)。結論は最初に出ていたりとかね。

安宅

それは周りを説得するための分析ですね。

星野

そうです。

安宅

そういうのは私も得意です(笑)。ただあまり恣意的にならないように、フラットに判断できる範囲でやるところにさじ加減がありますね。

星野

自分自身を説得するための分析だったりします。

安宅

それは本物じゃないですか。だって自分がリスク下げなきゃいけないと思っているわけですよね。55%、あるいは65%ぐらいの確度がないと判断できないということは、本当の分析だと思います。

AIは脅威ではなく、
人類の新しい武器。

星野

AIの話は、客観的に見て考えるって大事だね。何でも信じ込んでこれからはAIの時代だというよりも。

安宅

新しい武器を人類が手に入れたと思ったほうがいいと思います。

星野

それは間違いないですね。

安宅

間違いないです。Transformativeという言葉がありますが、何もかもが変わると思います。情報識別というのは我々の作業のかなりを占めているので。みんな機械に任せると本当に楽になりますよ。深夜バスの無残な事故とかあったじゃないですか。ああゆうことも消えます。そもそもキカイは居眠りしませんし、360度レーダーを回して、AI的予測に基づき、とっさの対応も委ねることで。誰かが監視しなくても、その時間は人間にとって自由な時間になります。

星野

それを何に使うか、ですね。

安宅

Fun Timeですよ!!(笑)

人間が不得意であるものは、AIに任せて。人間が得意なことにもっとパワーを注ぎ込めるようになります。

人間が不得意であるものは、AIに任せて。人間が得意なことにもっとパワーを注ぎ込めるようになります。

星野

価値を生んでいく時間に使わなきゃいけないな。

安宅

ですね。自ら感じ考えるということが大事だと思います。結局、僕らの仕事は、最後は「意味を理解する」とか「物事を決める」とか「人に伝える」、この3つに集中していくと思います。キカイが色々やってくれて、余裕が出た時間で色んな今までできなかったことを体験していく事が大事なんだと思います。

星野

なるほどね。もっとIntellectual(知的)に全員がならないといけないということかな。

安宅

はい。それも生身(なまみ)のIntellectualです。鉋(カンナ)がけについて1,000回本読む暇があったら実際にかけろ! スタンダールの恋愛論を100回読む暇があったら、3回異性に振られろ! そういうことです。二日酔いについて学ぶのもいいが、酒で一度はやられてみろという(笑)。

星野

なるほど。AIと人間の学習能力の違いはどういうものなのでしょう。

安宅

能力というより、学習の質、内容が根本的に違います。AIと言われているものの中で重要になっているひとつの要素技術は、機械学習と言われてるものですが、これが曲者で(笑)。Machine Learningの直訳なんですがキカイに学習させるための技術の総称です。いっぱいありますがそのうちのひとつで、この何年かで劇的に発展した画期的な新技術群が、Deep Learning、深層学習と呼ばれているものです。

これら「機械学習」は日常私たちが使っている学習や学びというものとはまったく違う概念です。まったく関係がないとは言えないけれど、質的に違うものです。機械学習というのはアウトプットをAとかBとかCとか決めて、そのインプットをABCに区分けするため、その間のパラメータを設定する行為なのです。たとえば、ある画像を「犬ですか。猫ですか。それ以外ですか」と認識させるためには、そのパラメータを設定していくデータをいっぱい入れるといつかそれができるようになる。

星野

そうすると、いつか、これは犬だ、猫だ、それ以外だ、と識別できるようになる。

安宅

はい。だいたい当たるようになります。最終的には概ね当たるようになる。これが機械学習です。

でも、私たちの学習というのは「この草を踏んだら、かぶれた」みたいな。「ある草→かぶれる」という二つの意味が直接つながるようになって行われていきます。アウトプットを一切目的とせずに。こうして、生物学的な学習の場合、経験にともない意味付与が行われます。アウトプットを目的としない経験が意味を生み出し、これを繰り返すことで高度な意味理解を実現しています。

一方、現在、革新のさなかにある機械学習は、アウトプットのためにモデルの中の変数、パラメーターを決めていくプロセスです。機械学習をやっている人たちは「学習とは分けること」と言いますが、それはこのことが彼らの頭のなかにあるからです。アウトプットドリブンなのです。我々生命にとっての学習とは、異なる情報の間に関係性を見出すことなので、インプットドリブンであり、ある種、真逆です。

星野

最近、多くの人がAIのすごさ、怖さというものを感じたのは、将棋やチェスで、AIが羽生善治さんを破ってしまったとか、チェス世界一の人を破ったというニュースだったかもしれません。あれも、Machine Learningの世界なんですね?

安宅

はい。ああいう論理的に詰めていく世界は、もともと人間に向いていないのです。人間というのはもっとファジーに、ざっくりと判断しながら生きている。この中にあって、プロの棋士の方々は、神がかり的な能力を持っている。大局的に論理的な世界を読んでいくのですから。人間としては、普通の能力じゃない。まさに神業。だから、私は尊敬しているのですが。けれどもAIは論理的に詰めていく、計算していくことが得意なんです。

星野

機械のように膨大なデータを学習、予測できる神がかった人がいるとことですね。

安宅

そうです。本来人間ができることじゃないことができる人たちです。

星野

そうか、羽生さんたちがすごすぎるってことですね。

安宅

驚異的なことです。例えば、人間は速く移動するということにおいては、機械(車や電車)に叶わないわけですからね。

星野

将棋やチェスの一件は、AIの世の中への認知率を上げましたね。でも、安宅さんの様に説明してくれる人がいなかった。将棋は元々機械(AI)に向いてるんだという発想は。

安宅

論理を突き詰めていくのは機械のほうが早いです。

星野

予測のスピードが早いということですね。

安宅

予測と盤面判断の両方ですね。盤面を識別した上で、駒の動きを予測するわけです。

星野

将棋はパターンを予測する数でなんとなく説明できるんですけど。囲碁はもっと全体を見ているという話を聞いたことがあるんですが。

安宅

そうですね。局面判断という不思議なことやっているのは事実です。膨大な訓練から来る「確率の集積」です。

星野

あれを見てびっくりしちゃって。

安宅

本当ですよね。大局観的能力を得てるわけですね。非常に高次な識別を行っている。衝撃ではあるんですけど、人間はもともと恣意的で、見たいものしか見てない事が多いわけですから。

たとえば一般的に、男性と女性がカップルで買い物に行っているとしましょう。女性が「さっき、竹野内豊みたいにかっこいい人が通り過ぎたわね」と言う。でも、同じ距離で通り過ぎたのに、男性には見えていない。それぐらい、われわれは恣意的なものの見方をしている。

星野

確かにそうだな。

安宅

逆に男性には他の美女の姿が鮮明に入ってくるけど、女性には見えていないということもある。

星野

なるほど。大局観的能力というのは、それらを景色として全部認知できるということなのですね(笑)。人間にはなかなかできない事ですね。

Vol.2 バーチャルが超リアルになっても
「ナマ」にはかなわない。

星野

実際にYahoo! JAPANでは、どんなふうにAIを使っているのですか。

安宅

はい。うちの事業は大きくいうと、2種類あります。1つはメディア的事業。ニュース、天気とか検索などのメディアがあって、それらを広告の収益で支える。もう一つはコマース系の事業。ヤフオクとかショッピング、旅行系のものですね。実際に商品を売って、ペイメントも利用してもらう。

前者は大量にAI的なものを使っています。そもそもメディア事業の中核の一つである検索というのは、AIの化け物のようなものですし。たとえば、検索ワード、文脈から意図を解析するところはAI的な情報処理が多面的に入っています。提供する情報も事前に解析して、意図に合わせて意味的にマッチングする、これらはAI以外の何物でもありません。

また、例えばメディアでニュースが流れてくる。あれは実は人それぞれに流れてくる情報が違っています。その人の過去の行動に合わせて、学習が行われていって、その人が見るものを設定する。飽きられないように最適化する。そこですごくAI的な技術を使っています。毎日何千と情報元から送られてくるニュースの写真も様々な形がありますが、これを適切に画面に合わせてくり抜くのにも先ほどのdeep learningの技術を使っていたりします。

さらに広告のマッチングですね。これもAI以外の何物でもない。リアルタイムでマッチングします。ある人が見ている、ある場面の瞬間に合わせて、100ミリ秒ぐらいのタイミングで、広告の在庫とあてていくわけです。今の行動と過去の履歴から想定される関心を予測して、あてる。これは完全にAIの仕事です。

実はコマースのレコメンデーション、商品検索した際のリスティングも購買予測に基いて組まれています。カートに入れる予測まで、AI的に行います。この会社の事業は行っている情報処理的に見れば、本当のところほぼAIなんです。

広告やショッピングのレコメンデーション機能は、もっとも身近なAI。ヒトとモノにまつわる嗜好を分析して、在庫とマッチングさせていく

広告やショッピングのレコメンデーション機能は、もっとも身近なAI。ヒトとモノにまつわる嗜好を分析して、在庫とマッチングさせていく

星野

そういえば、私はここのところ何を検索してもスキーの広告が出てきます。

安宅

完全にリターゲティングされていますね。

星野

みんなもそうなのかな? と思ったら全然違うっていうから。

安宅

私もカメラばかり出てきます(笑)。

星野

なんでこんなにマニアックな板を広告しているのだろうと思っていたのですよ。

安宅

明らかに星野さんの興味嗜好が読み込まれていますね。

星野

それはすごいよね。

安宅

(笑)。ですね。おそらくネットでご覧になっている広告の多くがGoogleかYahoo! JAPANの在庫です。でも、過度に興味を読み込んでマッチングさせると気持ちが悪いし、不快ですよね。広告の場合、メディアと違うのは、イグザクト・マッチ(exact match)をあえて避けるようにしないといけないのです。過度にぴったり合わせると、気持ち悪いと思われてしまう。それともう一つ、その人の見えていない関心を当てられない可能性がある。そうなると広告の価値が落ちます。

幅は広めにしておいたほうがいいということです。かたや検索というのはそのものズバリが出てこないと意味がない。レーザービームのようにピンポイントで合わせないといけない。実は仕組み的には同じようなことをやっているですが、目的に合わせてユルさをあえて変えていたりするということです。

星野

ぴったりだと気持ちが悪いというのは、よくわかります。

安宅

レコメンデーションは全く違うロジックが4つか5つあります。ざっくりいうと、人であるかモノであるかということで分かれています。

その人に合わせるレコメンデーションというのと、ものに合わせるレコメンデーションは違うのです。人にあわせるレコメンデーションは狭い。特定の人の嗜好や過去の行動に合わせることをやりすぎるとあまり意味がないことが多い。

モノに合わせるというのは何かというと、あるモノに関心を持っている人は、他にどういうモノを欲するのかという個々の膨大なデータがあります。若干想像を絶していますが、これを買っている人がなぜかモノ同士は関連性のないあるモノを買うことが多い。そのような時に、理解不能なレコメンデーションが起こるのはそういうわけなのです。

星野

なるほど。私たちの商品「旅」をレコメンデーションするヒントがそこにあるような気がしてきました。

じゃあ、「バーチャル彼女」で十分なのか?
怒らない設定にはできるけど。

星野

AIが進んできた場合に「旅」というのは、今とどう変わるのでしょうね? 現地の様子は画像でキレイに360度見えてしまうし、動画でもシェアできてしまう。一度も行ったことがなくても、遠い地の情報は手に入りますし。旅に魅力を感じる人が減っていくような気がして心配なんですよ。

安宅

旅の未来ですか。私はよりいっそう、人間は生(ナマ)、ライブに向かっていくはずだと思いますけどね。

星野

そうですか?

安宅

バーチャルリアリティ、VRが運べる情報というのは相当狭いんで。

星野

ビジュアルしかないですね。

安宅

はい。とは言いつつ4DXみたいなのもありますけれど。4DXというのは画像が3Dである上に、振動とか匂いとか音とか、首に寒い風が吹き付けられるとか、タコが自分の脚に絡まってくるとかいう疑似体験ができるものですね。

星野

椅子がガタンと動いたりするあれですね。

安宅

はい。あれを経験すればするほど、リアルを体験したくなりませんか。

星野

それはそうかもしれません。

安宅

たとえば「VR彼女」で十分な時代が来るという人は多いのですが「ホントかよ?」と、私は強い疑問をもっています。

星野

旅もリアルがいいと思ってもらえるかな。VRの旅がリアルの旅を邪魔することはないか。心配なんですよね。その対策のひとつとして、私たちは自分たちのサイトで施設や滞在の情報を出し過ぎないようにしようとしているんです。

画像もふくめ滞在の様子を出し過ぎてしまうと、実際にそこへ行ったときの発見や感動がなくなるじゃないですか。

安宅

確かに、ガッカリが増えるかも。

星野

事前情報で予定、計画されていることがその通りに起こり、それで終わりになるというのは非常につまらないことです。発見を残しておくということが大事なんじゃないかと思っているのですが。

事前から組まれた予定をこなすだけの旅なんて、ツマンナイですよね。でも、予定を見せないと旅に出てくれれない。そこが難しい。

事前から組まれた予定をこなすだけの旅なんて、ツマンナイですよね。でも、予定を見せないと旅に出てくれれない。そこが難しい。

安宅

同感です。「意味深な写真」が2、3枚あればいいと思います。かなりクオリティの高い。ただそれが素人の写真しかないと、逆に行く気がなくなっちゃう。そそられない。プロの写真がないと。

星野

でも意味深なのが3枚だと予約は入ってこないでしょうね(笑)。そこまで旅にリスクを冒す人はいないなぁ。

旅大好きの安宅さん。自らの旅体験で一番印象深かったのは「ドロッドロ体験」だとか

旅大好きの安宅さん。自らの旅体験で一番印象深かったのは「ドロッドロ体験」だとか

安宅

じゃ30枚(笑)。

星野

何枚かはさておき。リアルな場に発見をどう残すかということですね。発見がもう絶景じゃないのかもしれない。絶景は画像になりますからねぇ。味とか。なかなか画像にしにくいものが必要ですね……。

安宅

あとは人との会話でしょうね。コミュニケーションだけは現場でないと成り立ちません。

星野

そうですね。沖縄の竹富島に「星のや竹富島」がありますが、その島の「おばあ」に会えて話せてよかった、というお客様はたくさんいらっしゃいますね。数年後に大阪にも施設ができますが、「大阪のおばちゃん」に会いたくて大阪に行くという人もいるかもしれない。その土地に行かないと会えないわけですものね。そういうコンテンツを伸ばしていかないといけないですね。

安宅

土にまみれるという体験もいいと思いますね。3~4年前に奄美大島に一週間くらいいたことがあるんですが、いちばん憶えているのは、大島紬の泥染めをやったことなんです。本当にドロッドロで(笑)。

星野

やろうと思ってやったというよりも、やるハメになったというところはないですか。

安宅

そうですね大島紬博物館みたいなところに行ったら泥染め体験することになってしまい、気がついたらドロッドロ。

星野

それは結果的に素晴らしい体験で思い出に残っているのでしょうね。ただ、安宅さんはもともと能動的に「ドロッドロ体験」を選んではなかった。「ドロッドロになるために旅に行こう」とは思わないですよね。「ドロッドロになりに行こう!」というのが旅の動機にはならないところが難しいんだよな。

安宅

うーん。そうですね。その楽しさに偶発的に出遭わないといけないわけですよね。

Vol.3 グローバルの旅行市場は、拡大。
問題は国内市場?

星野

Yahoo! JAPANでは、旅とか旅行の占める割合は大きいですか?

安宅

それは検索に占める割合ですか。将来のビジネスに占める割合ですか。

星野

ビジネスにおいて占めるカテゴリーの重要度ですね。

安宅

今のところ小さいです。

星野

私は1990年に父親の仕事引き継いだのですが。あの時は大手旅行代理店からと電話でほとんどの予約が入って来た時代でした。ところがそのうち突然インターネットというのが世の中に生まれ、お客様と私たちは直接結びついた。それまでパンフレットを作っていたのだけれど、これからはパンフレットを作らず、ウェブサイトを持てばお客様が来てくれると。サイト上から予約が入ってくるので一生懸命やっていたら、その間に、じゃらんや楽天トラベルだけでなく、エクスペディア、トリップアドバイザーと、次々と予約サイトが増えていきました。各予約サイトとのやりとり、出稿やメンテナンスなどの手間が膨大になり、旅行代理店と電話だけのときのほうがよかったんじゃないかと大混乱になって。

安宅

今は、どんなふうですか。直予約が多いんですか?

星野

星野リゾートは直予約をがんばっている方ですね。施設によりますが、施設全体の4、5割ぐらいが直予約です。予約サイトがたくさんありすぎて、お客様もわからなくなっているかもしれません。

今はさらにメタ・サーチエンジンが出てきて大変です。カヤック(KAYAK)やトリバゴ (trivago) などですね。

安宅

トリバゴですか。

星野

その客室を1番安く予約できるサイトが出てくるものです。トリバゴはエクスペディアが所有していて、横断検索です。オンライン旅行代理店が出している客室を検索して、並べるわけです。株主だからと言ってエクスペディアを優先しているわけでもない。

そういうメタ・サーチエンジンが出てきたのです。星野リゾートは今まで自社サイト以外では販売チャネルを絞ってきました。あちこちの予約サイトや旅行代理店に出すと手間ひまばかりが多すぎるからです。深くきちんと取引ができるところに絞ってました。しかし、メタ・サーチエンジンの場合、上位に来るには、オンライン旅行代理店にも部屋を出さないといけないなど、難しい世界です。旅行市場は伸びていて、インターネットの利用率も高い。世界規模では旅行カテゴリーはトップに来るんじゃないですか?

安宅

旅行って年に1回か2回しかしないじゃないですか。

星野

いや、そんなことないですよ。

安宅

出張が含まれているのですかね? それを含めば桁が一つ変わってきますね。

星野

それも大きいですが、伸びからいうと、プライベートの観光が伸びています。日本人市場ではなく世界的な市場でです。世界では中間層が増加してますから、旅行に行こうという人たちが増えてきているんですね。出張は逆に減っています。実際にそこに行かなくてもテレビ会議などで済んだりしますからね。

安宅

出張はなくなるべきです!(笑)。

最終的には、すべてそこに行かなくても完結できるようになりますよ。今でもMicrosoft社のホロレンズ(HoloLens)というのがあるんですが、それを装着して会議に出れば、同室でいる感覚でできます。ただ5G環境が欲しいですね。Wi-Fiがあればほぼ大丈夫です。

技術の進歩でつまんない出張なんてゼロになる日がくるはず。旅は楽しいものだけに。

技術の進歩でつまんない出張なんてゼロになる日がくるはず。旅は楽しいものだけに。

星野

ここにいなくても、その人がいるようにこの場に映すことができるということですか。

安宅

はい。空間に空間が重なって入ってきます。

ホロレンズはぜひ体験してみる価値があります。ヘッドマウント・ディスプレイなんですけど。3,000ドルぐらいで売っています。途方もないです。空間にオブジェクトを固定すると、後ろから見ることも、下から見ることもできる。遠隔にいる人にここに座ってもらうことができます。彼らが実際に作っているアプリケーションならば、遠隔にいるその人の同僚までも呼び出せるんです。

星野

それで観光にも行けちゃったりすると、まずい。

安宅

いや、それまで含めても、観光はなくならないだろうと言いたいんです。

星野

そういう商品が出てくるのは間違いないでしょうね。100%じゃないけれど、体験の30〜50%ぐらいはできる。実際の旅に比べればコストもかからないだろうし。「7割ぐらいの体験を10分の1のコストでできます!」なんて、どこかがやりそう(笑)。

安宅

バーチャル旅行ですね。電話ボックスみたいな処に入って。意外とコストかかりますけど、まあできますね。ただインタラクティブといっても限界があるので、自分が行きたいようには進めない。さっきの話で例えるなら、「大阪のおばちゃん」が出てくるとしてもいつも想定内の同じおばちゃんが出てきます。

星野

同じおばちゃんだけれども都市が選べたりするかもしれないですね。世界のおばちゃんに会えるみたいな(笑)。

安宅

それは新しい旅行になるな。

星野

それは脅威というよりも、その場に実際に行ってみたくなることの価値が増す可能性もありますね。

安宅

本当にそうですよ。

星野

その時に今までと同じことをやっていてはダメだということもあるかもしれない。旅の現場では、そういうことを含めた違う体験を用意しておかないとですね。

旅の楽しみは
想定外の出来事。

安宅

「日常から引きちぎられる」というのが、旅行の大きな楽しみではないですか。私がすごく好きなのは飛行機でスマホが繋がらなくなる瞬間!!いつも何かに繋がっているというのが耐えられないですからね。

星野

そういう意味で言うと星野リゾートが運営している中で、一番いいのはタヒチですね。

安宅

ネットがつながらない?それはいいですね。それはいい旅行だと思う。

星野

この間、オバマさんもタヒチに1ヶ月滞在されてたみたいです。

安宅

いいですね。完全なデトックス。

星野

確かにそういうニーズはありますね。そういえば星のやの「脱デジタル滞在」というプランはなかなか好評でした。宿に到着すると、金庫のなかに、スマホなど全部入れてもらうんです。

安宅

それはいいですね。

星野

私も通じるとあきらめがつかないけれど、タヒチに着くとあきらめがつきますね。どうにもならないし。最初タヒチに行ったとき、海岸でケータイを持って高く掲げて30分くらいじっとしていたな(笑)。なんとなく本能的にあるじゃない。高く掲げると電波が入ってくるんじゃないかって。でもなんにも起こらなかった。

安宅

(笑)衛星電話級のやつ持ってかなきゃいけないですね。

星野

ところが、このことはちょっと研究したのですが、衛星電話もある程度上に衛星がないとダメなんです。南半球はあまりないようで。タヒチは南米とオセアニアの間なのですね。あの辺りは衛星を飛ばす計画もない。静止衛星をおく価値がないと思われているようで。海だけだから。

安宅

それは恐らくまもなく変わります。

星野

えっ、そうですか?

安宅

衛星って、少し前まで1基何百億円と高価だったのが、1基1,000万円ぐらいでコンパクトなやつが出てきてしまったんです。それをばら撒けば。

星野

各島で衛星を持てるくらいの規模ですね。そんな時代がくるんだね。1,000万円ならテレビ会議システムを借りるより安いからね。すごい時代だな。

安宅

200基ぐらい一気にばら撒く。価格破壊です。1基何百億円という時代は終わったのです。

星野

みんな、衛星を持てるね。私も、衛星で自社施設をすべて把握できるかも。

安宅

ですです。ただ、その膨大な映像を誰が処理するのかという問題はあるんです。業界的に。AIが向いているはずですが、今のところソリューションは開発途上だと思います。

若者の旅離れは、
「愛」不足が原因か?

星野

世界規模では旅行者は増えていますが、今、日本人の旅行参加率は落ちています。

安宅

参加率とはどういうものですか。

星野

1年間に旅行した日本人の数が減っているんですよね。

安宅

人口が減っているから? 高齢化のせいですか?

星野

高齢化のせいではまだありません。今日本の旅行を支えているのはリタイアした人たちです。リタイア層が増えたことで旅行市場を下支えしています。その人たちが後期高齢者になるまでは安定しているでしょう。ただ団塊の世代が後期高齢者になる2025年以降は、旅行市場も急速に縮まっていく可能性があると思っています。加えて、問題は20代の旅行参加率が減っていることです。

安宅

それは人口比で補正してもですか?

星野

はい。

安宅

愛がないですね。これは愛の問題です、たぶん。20代で旅行するという動機は、「愛」でしょう!

星野

なんで行かないのかというのはいろんな人がいろんなこと言っています。そもそも経済的余裕がないのだとか、スマホにお金を使ってしまっているのだとか。これだという決定的な理由はわかっていないのですけれどね。

安宅

それは……絶対にリビドー不足でしょう!(笑)

星野

車にも乗りませんからね。

安宅

それもリビドー不足です。だってそういう気がしません?身体の中のFunが減ってるのだと思いますよ。ホルモンの血中濃度が低い。なんらかの理由で。

星野

なんでしょうね、その理由は。

安宅

煽りましょう、ホルモンを(笑)。

星野

本当に真剣に考えてできたら、すばらしいね。なんとかドリンクを一生懸命に宣伝するとか?(笑)

安宅

あはは!

星野

20代が変わったというか、今の20代に興味があるものを提案しなきゃいけないというか。さっきの議論で20代が変わったんじゃないかということだよね。車も買わない。免許もとらない。欲がない。旅行もしない。でも、欲がない人たちに欲を増やせと言っても難しいですよねえ。

やる気があるからやるんじゃなくて、やるからやる気が出てて來るというのが、旅にも言えるのではないでしょうか。まずはちょっとでいいから出かけさせることが大事

やる気があるからやるんじゃなくて、やるからやる気が出てて來るというのが、旅にも言えるのではないでしょうか。まずはちょっとでいいから出かけさせることが大事

安宅

うーん。これは池谷裕二さんと糸井重里さんの対談で読んだのですが「やる気があるからやるのではなくて、何かやるからやる気が生まれる」と。そういう洞察があったんです。やる気はやった後から生まれるのではないかと。意識というのは我々の神経活動をつなげるだけのものなので。何かをちょっとやらせるということが、やる気につながるのではないか。

星野

なるほど、ちょっと納得できる洞察ですね。

安宅

なんかはじめてみると、やる気につながる。私には高校生の娘がいるのですが。ある日「勉強のやる気が出ない」と言うので、「とにかくやってみたらいい。そしたらやる気が出てくる。そういうふうに出来てるんだから脳は」と言ったのです。そうしたら、少しやったらやる気になってきたわ、と。

星野

旅もそういうことがあるかもしれないね。家の前をちょっと散歩から始めるとか。

安宅

とりあえず全然知らない街を5分歩くみたいなこととか。

星野

ポケモンが好きな人が、そのうちポケモンがいなくてもどこかへ出かけようと思ったりするとかね。そういう動機が必要だね。旅そのものばかりいじってても、だめなのかもしれない。

安宅

結局意識があるものというのは、おまけである。そういうことですね。

よく意識と無意識っていうじゃないですか。脳の中で起こっていることはほとんど無意識ですから。我々は何が起こっているか何もわからない。意思の発生すら。むしろ何かをやらせれば、何か意識が生まれると思ったほうがいい。

星野

そのパターンを見つけなきゃいけないね。旅につながる行動のパターン。ツアーとかというような直接的なものではないかもしれない。

安宅

細かくその部分の行動を分析すると、わかるかもしれないですよね。AIがネットで、モノのレコメンデーションをするのと同じで。どういうタイプの行動がそこに繋がるのか。私のチームのある女性が会社の椅子用の「背もたれ」を検索したら「ほうれい線予防グッズ」がレコメンドされた。そういう想像を絶するレコメンデーションみたいなものがありそうですね。旅にも、旅につながる何かそういうものがあるかもしれない。

星野

それは重要かもしれない。

安宅

ビックデータの出番です。私は、社内の有志何人かとYahoo! JAPANビッグデータレポートというのやってるんですが、旅につながるものを出したら、旅業界に喜ばれそうですね。

星野

エクスペディアやトリップアドバイザーもいろんなデータをたくさん集めているはずなのですが、生かせているのでしょうか?

安宅

彼らは旅行に閉じすぎているので、旅行データ外にあるものから発見することができないかもしれません。うちのようにメディアをやるとか、検索をやるとか、全然関係のないコマースをやっているところの方が、先ほどの「想像を絶する発見」ができる可能性が高いと思います。

星野

ますます、旅の周辺にある旅を喚起させるものの必要性を感じますね。 今日は本当にありがとうございました。

構成: 森 綾 撮影: 萩庭桂太

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