Vol.1「発酵するまち、高島。」ならではの
鮒鮓を作って400年

星野:
今日は楽しみに参りました。
北村:
遠いところ、滋賀県高島までようこそお越しくださいました。
星野:
ロテルド比叡の村田巧シェフから「1000日漬ける」とか「琵琶湖固有種のニゴロブナしか使わない」など、いろいろと「喜多品老舗の鮒鮓」についてのうんちくを聞いていました。とても素晴らしいなと思い、ぜひ伺いたかったのです。

1000日以上の日にちをかけて熟成する創業四〇〇年「総本家喜多品老舗」の鮒鮓。熟成された身と赤い卵がねっとりとして、濃厚な味と香り。下に発酵飯を敷き、円く盛る「巴盛り」という独特な盛り方は北村さんの父、十七代目が考案したものだそう1000日以上の日にちをかけて熟成する創業四〇〇年「総本家喜多品老舗」の鮒鮓。熟成された身と赤い卵がねっとりとして、濃厚な味と香り。下に発酵飯を敷き、円く盛る「巴盛り」という独特な盛り方は北村さんの父、十七代目が考案したものだそう

北村:
ロテルド比叡で扱っていただき、ありがとうございます。最初に村田シェフからお電話をいただきまして。それもお料理をしてくださるだけではなく、実際に年に1回設けています。二ゴロブナ漁の体験の日に、朝5時から一緒に船に乗っていただけたりと、とても深くかかわってくださり嬉しかったです。我々の鮒鮓は3年かけて作るものなので、そんな深い思い入れが通じたのかなと思っています。
星野:

軽井沢にあるフレンチレストラン「ユカワタン」から来た村田は、軽井沢でも地元で食材を作っている人と一緒に仕事してましたから。最初から「素晴らしい方々が見つかりました」と興奮してましたよ。

北村:
私は生まれも育ちもここですので、以前は鮒を漁師さんが持ってくるのが当たり前だと思っていました。でも、料理をするシェフが、いろんな仕事のあるなかで食材に関わるために来てくださることに刺激をいただきました。2012年に一度お店を閉め、2013年に再開店するにあたって、地元高島の材料で鮒鮓を作ろうと決めました。琵琶湖で一番古い83歳の漁師さんにいろんなことを教えてもらいながら始めたのです。

星野:
83歳! それはすごいですね。今も現役でいらっしゃる?
北村:
はい。いろんな方に講習されたりもしていますね。その方にお願いしていろいろ教えていただきながら。鮒鮓は琵琶湖の命をいただいているものだと思っています。
星野:
一般の人は鮒って釣りではよく釣ったりはしますが。ここで鮒鮓が発展していったのは、なぜですか。なぜ鮒だったのでしょう。
北村:
琵琶湖は今でこそコンクリートの堤になってきていますが、もともと湖岸には葦が密集していました。そこに鮒が卵を産みつけます。うちの祖父の時代は、獲りにいかなくても鮒は自然に集まってきていたようです。このあたりは米どころではありますが、たんぱく源を通年確保するため、鮒を発酵させ、保存食にしたのでしょうね。
星野:
米どころだから鮒鮓も米に漬けたのか。
北村:
鮒鮓を作るには鮒とお米と塩が一番重要なのです。塩は福井県の若狭から京都への「塩の道」を通って、やってきます。
星野:
たんぱく源を保持するために、地域で獲れるものと地域で手に入りやすい食材で工夫した結果、生まれた文化なんですね。
北村:
もともと鮒鮓は東南アジアから稲作とともに入ってきたと言われています。
琵琶湖だけではなく、九州や諏訪湖のほうでも過去には鮒鮓がつくられていたようです。いろんな条件で最後に残ったのが琵琶湖です。今は長野県諏訪湖でも復活に向けた動きがあるようですが。
星野:
諏訪湖でですか? 地元の県なのに全く知りませんでした。でも琵琶湖はやはり有名ですよね。

さきほど、「どっぷり高島のものでいこう」と決めたとおっしゃっていましたが、琵琶湖周辺の地域によって、鮒鮓の作り方も違うものなのですか?
北村:
鮒鮓は、なれずしの一つというイメージがあると思います。ご飯を発酵させた食べ物というイメージですね。この高島には五蔵の酒蔵がありまして、地元の方にはそこの酒粕で漬けた甘露漬の需要が強いです。お祭りごと、法事などで食べる機会があります。

「総本家喜多品老舗」の店構え。400年の歴史を感じさせる「総本家喜多品老舗」の店構え。400年の歴史を感じさせる

星野:
高島の特徴というのはあるんですか。
北村:
もともとこの辺りには「大溝城」という安土桃山時代に築城された城がありまして。1619年にそこのお殿様の賄い方として仕えたのが「喜多品」の起源です。それで鮒鮓が得意だというので料亭になり、私の曽祖父の15代目が身体に良いものなのでもっと鮒鮓を広めたい、と特化したようです。京都の料亭にお届けしたりするようになりました。

ここ高島の地は水がきれいなのと、冬が寒くて夏が暑いというので、発酵食品をつくるのにとても適した土地なのです。この土地では鮒鮓に限らず、酒、酢、麹、味噌などを作っています。仕事としてというより、町ごとが発酵しているようなところなんです。

「白衣に身を包み、ロテルド比叡の支配人唐澤と発酵蔵へ。
ロテルド比叡では、喜多品の鮒鮓を発酵食品であるワインのジュレとチーズを合わせた前菜など提供している白衣に身を包み、ロテルド比叡の支配人唐澤と発酵蔵へ。
ロテルド比叡では、喜多品の鮒鮓を発酵食品であるワインのジュレとチーズを合わせた前菜など提供している
http://hr.hotel-hiei.jp/cuisine/gus.html

星野:
発酵する町、って面白いですね!
北村:
「発酵するまち、高島。」と、盛んに町おこしをやっています。地元の商工会が京都三条に高島のアンテナショップを出したばかりなんですよ。

構成: 森 綾
撮影: 内藤貞保