Vol.3ファミリービジネスの後継者問題。
娘が継ぐのは意外にも正解!

星野:
さっき83歳の漁師さんの話をうかがいましたが、漁師も代々継がれているのでしょうか。その方は何代目ですか。
北村:
16代目だそうです。
星野:
へーっ。鮒を、ずっと!?
北村:
それだけではないと思いますが、鮒がメインでしょうね。
星野:
すごいですね。
北村:
残念ながら血筋では後継者はいらっしゃらないのですが、若い漁師さんはいらっしゃるようです。
星野:
もしいなかったら、私が探したいくらいです。
北村:
天気から何から読んで、いい日を選んでくださるんですね。ロテルド比叡のシェフの村田さんが3回目にきてくださったときはえらく船が揺れまして。主人と私は酔ってしまったんですが、村田さんは平気で写真を撮っておられました。
星野:
村田、漁師向いてるかもしれない(笑)。そういうのは大事ですよね。後継者というのは。若い人が血筋じゃなくても来てくれたらいいですね。
北村:
うちも家内だけでは守りきれない部分は手伝ってもらって、と思っています。
星野:
喜多品もちょうどオリンピックの前の年に400年ですものね。これは盛大にお祝いしなければ。北村さんは何代目ですか。
北村:
私で18代目です。
星野:
いつ頃から家業を継ごうと思われたんですか。
北村:
私には兄と弟がいまして、女は私一人なので、正直、跡を継ぐとは思っていませんでした。母は自分の夢が舞妓さんだったので、私に踊りや唄の稽古をさせて、家業からはとても遠い生活でした。ただ、もしかして男兄弟が継がなかったときのことを思ったのか「丑年の女の子は家を継ぐらしいよ」と吹き込まれていました(笑)。

ちょうど平成元年に春休みに東京へ、滋賀県の物産展を手伝いに行ったんです。するとまだ20~30代の後継者の方たちが意気揚々と働いておられました。それを見て「もしかして自分も」と。それまではどちらかというと鮒鮓の家の娘だということは隠していたんですが。
星野:
わかります。私も旅館の息子だということは言わなかったですからね。
北村:
説明しても握り鮨と間違われたりするので。
星野:
そうですね、積極的に言わないですよね(笑)
北村:
でも東京で初めて見た光景は「これを伝える」ということなんだと。私はその後、短大を出て調理師学校へ行ったんですが。食べることが大好きなので、ホテルでアルバイト的に調理場で働いて、その後、ご縁があって京都の料亭でも働きました。そこで家業を継いで、努力されてる人をまた見ました。
星野:
それはもう継ぐということを前提にステップを踏んでおられますね。
北村:
計画的にではなく、直感で動いていたんですが(笑)
星野:
では、学生のときに物産展に行かれなかったら、その後はなかったんですね。
北村:
そうですね。弟はもうずっとうちの手伝いをしていましたから。
星野:
お兄さんと弟さんは今はどうされているんですか。
北村:
食とはまったく違う道に進んでいます。
星野:
そうですか。難しいものですね。ちなみに最近、家業は誰に継がせるべきかという論文が出ていまして、一番成功しているのは娘婿、次は娘、3番目に息子だそうです。娘が継ぐのはかなり良いようですよ。
北村:
そうなんですね(笑)、よかった。主人はずっと料理人をしていまして、2000年頃に母が体調を崩し、夫は手伝いのために「鮒鮓を作る」という意味がわからずに刺身包丁を一本もって京都からバイクに乗って来たんです。うちの父に「何しにきたんや」と言われたんですけど(笑)。技術を継ぐなら早いほうがいいということになって、私も一緒に学ぶことになったんです。

このあたりは酒屋さんも多いですが、やっぱり娘婿さんが継いでおられる例が多いですね。論文より先に実証されているかもしれません。
星野:
家業を継いでいくときの世界的な大問題は「息子が経営に向いていない」なんですよね。世界の中でファミリービジネスが数百年続いているのはイタリアと日本なんですよね。圧倒的に数が多いのです。うちは4代目で102年で、リゾートでは長いほうですが、400年はすごいです。

把握ではなく、同じ価値観、
同じ文化を共有する

北村:
私から星野社長にお伺いしたいことがあります。
たくさんのホテルや旅館を経営していらっしゃいますが、すべてをどうやって把握していらっしゃるのでしょうか。
星野:
すべてを把握しているわけではありません。総支配人がいてくれますし、今、正社員が2300人くらいいますので、まずは「同じ価値観、同じ文化」を持つことを大事にしているんです。それをベースにそれぞれが自分自身で考えることができるようにしているんです。だから私はその全体の文化を維持するのにどうしたらいいかを常に考えています。今は、日本全国+南太平洋+東南アジアで36拠点ありますから、ちょっと専門用語になりますけど、ビジネスのスケールといいますか、それぞれの施設にとって全体で動くとプラスになることは何か?を一生懸命考えるようにしています。販売や営業、マーケティングは一箇所でやって効率化しようとか。旅行代理店への営業や交渉も一か所でやろうとか。ロテルド比叡のように小さな施設だけれども、強い個性を持っている土地と施設というのはメリットだからそれを生かそう。その役割分担をしている感覚です。
北村:
素晴らしい発想ですね。

喜多品のすぐ側の酒蔵「萩乃露」をご用意してくださった。星野地元の信州の酒より甘く鮒鮓とよく合う 喜多品のすぐ側の酒蔵「萩乃露」をご用意してくださった。星野地元の信州の酒より甘く鮒鮓とよく合う

星野:
私の譲れないところは、組織の文化とか価値観です。星野リゾートらしい環境で働きたいという人が入って来てくれているので、それはどの拠点に行っても文化とか雰囲気は共有できるようにと思っています。

ですから私も年に一度はすべての拠点にいくようにしています。全社員研修という私が全スタッフに今年度の総括と来年以降の展望をプレゼンテーションする場を設けています。その後、1時間半くらい時間をもらって社員会をやるんです。マネージメント側からスタッフに対して感謝を示す会なんです。
北村:
先日、ロテルド比叡に泊まらせていただいて、料理を試食させていただきました。主人とではなく、あえて鮒鮓ビギナーの女性と伺わせていただきました。女子旅で楽しませていただいて(笑)。彼女がずっと話していたのは「母ともう一度来たい」と。私も短大のお友達とも来たいと思いました。発酵のお茶など、飽きさせない工夫が随所にありましたね。

老舗、旅や食を通じての地域の文化への貢献、ファミリービジネスの後継者などいろいろな共通点が多かった2人。今後も様々な試みが楽しみだ 老舗、旅や食を通じての地域の文化への貢献、ファミリービジネスの後継者などいろいろな共通点が多かった2人。今後も様々な試みが楽しみだ

星野:
さっき「発酵する町」とおっしゃっていたじゃないですか。延暦寺もいいけど、京都と似ているじゃないですか。滋賀に来る理由を京都と違う魅力で打ち出すっていいですよね。 発酵している感をビジュアル的にも演出したいと思っていて、それはまたぜひご協力ください。
北村:
はい、こちらこそよろしくお願いします。
星野:
それがまた旅から帰ってきても鮒鮓を買いたいと思うことにもつながると思います。本日は18代目のこだわりをたくさん聞かせていただき、本当にありがとうございました。

構成: 森 綾
撮影: 内藤貞保