Vol.2「食文化を絶やすな」という支援と、
地域ぐるみの鮒の保護で「鮒鮓」復活!

星野:
「発酵するまち、高島。」で創業して400年。よく代々、無事に続けてこられましたね。

桶から鮒鮓を取り出してくれるというので、自ら重石を持ち上げる星野。しかし、思ったより重かったよう(笑)。桶から鮒鮓を取り出してくれるというので、自ら重石を持ち上げる星野。しかし、思ったより重かったよう(笑)。

北村:
正直に申し上げますと、うちは無事ではなかったんです。2012年にいったん閉店していますから。父の代で、もう続けていけないと。経営的な事情と、鮒がもう捕れないと思い込んだことが理由でした。私はもう鮒鮓に携わることはないと思っていたのです。主人は愛知県で料理人をしておりましたし。

それを大津から和菓子屋さんの会長がお見えになって「この店の鮒鮓は滋賀県の食文化であるから、簡単に絶やしてはいけない」と。もちろん私自身にも代々携わってきたものを勝手に閉めていいのかという葛藤がありましたから、2013年の11月27日から、またやらせていただくことになりました。
星野:
では本当にわずかの間だけ閉めていたんですね。
北村:
本当はもう少し時間をかけて再オープンさせようとも思ったのですが、当社は木桶で鮒鮓を作っています。木桶に乳酸菌などが住んでいますから、菌が死んでしまうので、やるのであれば早くしないとと思いました。

長い年月、木桶に住む乳酸菌が喜多品の鮒鮓の味を作りだしている。蔵には現在9トンの仕込みがそれぞれの段階で熟成中 長い年月、木桶に住む乳酸菌が喜多品の鮒鮓の味を作りだしている。蔵には現在9トンの仕込みがそれぞれの段階で熟成中

星野:
発酵食品ならではの特徴ですね。継続的にやり続けないといけないという。
北村:
家庭で作るのであれば、1年ぐらいでできるものですが、うちは3年かかります。2013年に仕込んだものを2015年の冬にしかお届けできませんから。
星野:
ワインに似ていますね。
北村:
2年塩漬けにして、半年ご飯漬けをして、ご飯を入れ替えてまた半年、ご飯漬けにするのです。
星野:
それは高島の作り方なのですか。
北村:
そうです。うちの代々の製法の言葉に「百匁百貫千日」という言葉があるんです。百匁は375グラム、百貫は大きな木桶で、それを1000日かけて作りましょうと。それを守ってきた製法です。
星野:
他の店はそこまで時間をかけないのですね。
北村:
そうですね。3~4ヶ月塩漬けで、あとはご飯漬けという作り方が多いようです。鮒鮓を切ったときに、羊羹を切ったように卵がなめらかになることを理想としています。そうさせるには2年は塩漬けをしないと。
星野:
まるで5年もののウィスキーと30年もののウィスキーの違いのようです。
北村:
もうひとつの理由は、原材料の備蓄ですね。塩漬けは5年でも7年でも置いておけます。塩蔵保存ですから。それをご飯に漬けることによって初めて旨味が引き出せる、味がのるんです。喜多品の鮒鮓は琵琶湖にしかいないニゴロブナのみを使いますから、鮒の獲れ高によっては商売できない年もでてくる。鮒が成長するのに3年くらいかかりますから、そういう自然のことも考えて商売しなさいという意味もあると思います。

「近江の厳島」とも呼ばれる白鬚(しらひげ)神社の湖中大鳥居。琵琶湖の恵みを守っている 「近江の厳島」とも呼ばれる白鬚(しらひげ)神社の湖中大鳥居。琵琶湖の恵みを守っている

星野:
2012年は鮒の仕入れ値も高かったのですか。鮒が生息している数というのはどうなんですか?環境を整える態勢もあるのですか。
北村:
今、滋賀県のほうで力を入れてくださっています。具体的には外来魚のブラックバスとかブルーギルといった魚の駆除です。コンクリートで鮒の産卵場所が減ってきているという問題は、稚魚を田んぼで大きくしてから琵琶湖に放流するという対策でだいぶ解決されてきました。
星野:
滋賀県の活動はいつ頃から始まったのですか。
北村:
20年前くらいでしょうか。
星野:
それは喜ばしいですね。ニゴロブナの保護はこれからも続きそうですか。
北村:
稚魚の放流は地元の金融機関も力を入れてますし、続けてくださると思います。

この地に来て味わってもらう文化が
食と旅をつなぐ

星野:
食べる方の需要はどうですか?
北村:
ちょうど再開店のときに仕込んだ鮒鮓を去年お披露目させてもらったんですが、全国でお客様が待ってくださっていました。料亭、高級鮨店の方が中心です。応援してくださる方には5カ月もの、8カ月ものとお味見していただいて。1年に2~3回は試食会のようなことをしています。
星野:
そういう、本当に応援してくださっている顧客の方って何人ぐらいいらっしゃるんですか。
北村:
たくさんおられますが、こちらに来ていただくのは50人ぐらいに限定させていただいてます。昔ながらの鮒鮓の味を知る生き証人の方を中心に。
星野:
待っている方にはどうやって届けておられるんですか。
北村:
チルド便で全国配送しています。招待会のときはこちらに来ていただくのが一番なので。ここに来ていただくからこそ、思いをもってくださると。特に鮒鮓はお酒のおつまみとして愛されているので、造り酒屋五蔵のご当主にお願いしてうちの鮒鮓にあうお酒をセレクトしてもらいます。ここに来られる方には鮒鮓は値段が張るイメージもあるので、とびきり大きい鮒鮓をもういらないというほど食べていただきたいと思っています。

発酵飯の中から大きなニゴロブナが。発酵飯は海苔に巻いて焼いたりしても美味しいとのこと。ロテルド比叡ではアイスクリームに混ぜてデザートにしている 発酵飯の中から大きなニゴロブナが。発酵飯は海苔に巻いて焼いたりしても美味しいとのこと。ロテルド比叡ではアイスクリームに混ぜてデザートにしている

星野:
鮒鮓と日本酒の文化というのは、世界にアピールできますよね。海外でもすごくウケると思います。特にヨーロッパの方は好きだと思いますね。
北村:
フランスの方が来られましたけど、チーズに近いと。ダメな方はダメかもしれませんが、東南アジアもなれずし発祥の地ですし、召し上がり方さえちゃんとお教えすれば受け入れてもらえるかなと考えています。
星野:
楽しんでくれると思いますよ。面白いですね。
北村:
実際にもっと琵琶湖へ来ていただきたいですね。うちは南で大津寄りですが、北へいくとマキノというところがありまして、去年の4月に高島市内の3カ所の水辺景観で日本遺産(http://ja.biwako-visitors.jp/japan-heritage/)になっていますから。
星野:
フランスのワインのようにその蔵元へ行って、そこで飲んだり食べたりすることを楽しむという旅ができるといいですね。それが旅行産業と食産業を結んでやりやすい。ロテルド比叡も含めて、日本の発酵文化を広めていきたいです。

構成: 森 綾
撮影: 内藤貞保