Vol.1「日本旅館」の面白さ。
靴を脱ぎ履きするだけで
そこに滞在していることを認識できる。

星野:
この度は、ようこそ「星のや東京」にお越しくださいました。お泊まりになった感想を聞かせていただけるとありがたいです。
マーカス:
出店のこともあって日本には10回くらい来ていますが、日本旅館に泊まるのは今回が初めてだったのです。靴を脱いだり履いたりするだけでそこに滞在していることが再認識されるのがとても面白い。くつろげる快適な時間でした。

今回の対談場所は「星のや東京」の各階に設けられたお茶の間ラウンジで。お茶を飲みながら、自宅にいるような雰囲気で行われた。さっそくフライターグのコンセプトについて説明してくださるマーカスさん今回の対談場所は「星のや東京」の各階に設けられたお茶の間ラウンジで。お茶を飲みながら、自宅にいるような雰囲気で行われた。さっそくフライターグのコンセプトについて説明してくださるマーカスさん

星野:
日本旅館の大切な要素は保ちつつ、多くの部分に改良を取り入れ、現代の旅人が心地よく宿泊できるようにしました。私は伝統的な日本旅館に生まれ育ちましたので、その良さを広めたいと思っています。でも、多くの経営者が昔ながらのやり方に固執しすぎて、旅行者は旅館よりも西洋式ホテルを使うようになってしまいました。旅館の数は年々減っています。私たちは旅館に変化を加え、現代の旅行者が心地よく過ごせるように進化させたと思っています。
マーカス:
すごく良いですね。人々が求めるコンセプトそのものだと思います。ヨーロッパから日本へ、あるいは東京に来て、良い旅館が見付からずにホテルしかないと、なんだか欠落しているような気がするので。
星野:

ありがとうございます。私たちは「旅館」を新しいホテルのカテゴリーと位置づけ、そして、「旅館」が日本以外でも人気になればいいなと思っているんです。

マーカス:
私はホテルが大好きです。未来のビジネスだと思っています。私には持ち家はないのですが、良いホテルで時間を過ごすのが好きで、それが効率的だと考えています。スイスの人々は別荘を欲しがりますが、結局は誰も使わないので空き家が目立ちます。
星野:
別荘は特定の時期にしか使わないですからね。
マーカス:
そうなんです。所有するよりもシェアをすることが、リゾート利用の未来形だと私は以前から思っているんです。人々はやっと、その場所を所有しなくてもシェアして楽しめるということが理解できるようになってきたと思います。
星野:
スイスではマンションにお住まいですか?
マーカス:
はい。私は賃貸マンションに住んでいます。ぜひ遊びにいらしてください。チューリッヒの湖の隣にあり、とても美しい場所です。幸運にもその場所とめぐり合うことができました。買うほどのお金はありませんが、賃貸ならできます。幸せです。
星野:
なるほど。興味深いですね。マーカスさんの生活のなかで旅はどれくらいの頻度ですか。

対談が行われた週末はFREITAG銀座店5周年記念のイベントが。店舗にはたくさんのファンが集まった。マーカスもファンとの交流を楽しんだ。対談が行われた週末はFREITAG銀座店5周年記念のイベントが。店舗にはたくさんのファンが集まった。マーカスもファンとの交流を楽しんだ。

マーカス:
私には家族がいます。外科医として働いている妻と、8歳と11歳の娘です。旅は年の1/3いや、1/4かな? 今回は家族が後から来て合流します。日本国内を旅して顧客にあったり、フライターグのファンと交流をする合間に家族と時間を過ごしたり、日本の文化をみたりします。素晴らしいガイドもいますので、楽しみです。
星野:
国内はどちらに行かれるのですか?
マーカス:

今回は大阪、京都、福岡、熊本ですね。熊本は大きな地震があったので、ファンのことも気がかりですし。初めて九州へ行くことにしました。

兄弟での経営はFreitagと星野リゾートの共通点。
遠慮なしに話し合う事で
いろんなアイデアが浮かぶ

星野:
日本での交通手段は電車ですか?
マーカス:
今までFREITAGの店の候補地を探す時もそうでしたが、都市に限らず国を知るのには自転車で回るのが一番素敵な方法ですね。私の一番大好きな移動手段で、自動車の運転免許を持っていない私にとっては唯一の交通手段なんです。
星野:
スイスでは運転免許はお持ちでしょう?
マーカス:
車の免許は持っていません。
星野:
運転免許をお持ちでない!?
マーカス:
将来には運転手がいるかもしれないですが、今はいません(笑)。
星野:
スイスではどんな風に移動されているんですか?
マーカス:
スイスでは公共の移動手段がとても発達しているんですよ。電車やバスや小さな地下鉄があります。車を持ったことがないので、その利便性のメリットもデメリットもわからないんです。もちろん予定をちゃんと組まなくてはいけませんし、スキーに出かける時などには大型のスーツケースが4~5個になりますが、鉄道会社に預けられるので、とても便利です。それにスキー道具はレンタル出来ますし。電車に乗った瞬間から交通渋滞に巻き込まれることもなく、皆で一緒に座っておしゃべりを楽しんだり、食事を楽しんだり、寝たり、飲んだりとリラックスして移動ができます。特に弟と一緒に移動するときには、そういう移動時間に経営のミーティングをするんです。普段と環境が変わると、違った発想が出てくるのでとても良いです。仕事仲間と会議室でミーティングの為にテーブルを囲む時とは違いますね。

自然に優しいことこそが持続可能で未来を作るキーワードというのが共通の二人の考え。兄弟で経営基盤を作り上げていったことも共通している自然に優しいことこそが持続可能で未来を作るキーワードというのが共通の二人の考え。兄弟で経営基盤を作り上げていったことも共通している

星野:
弟さんとの関係について、伺いたいですね。とても仲良く一緒に経営されているのですよね。私も星野リゾートで弟も一緒に仕事をしているので。
マーカス:
家族経営なんですか。
星野:
もともとは家族経営です。私は4世代目で、祖先が旅館業を創業してから102年になります。
マーカス:
弟と私は二人兄弟で、歳は14ヶ月しか離れていません。仲は良いですね。星野さんのところはどうですか?
星野:
仲は親密な方だと思いますよ。ずっと同じ学校に行き、スケートやスキーなど、同じスポーツを楽しんできましたね。

「強い防水のバッグが欲しいな」
その時、アパートのキッチンから
トラックのタープが見えた。

星野:
FREITAGのコンセプトのアイデアはあなたから出たのですか? それとも弟さんからですか。
マーカス:
アイデア自体は2人でピンポンのように出し合いました。弟は元々グラフィックデザイナーで、私は仕事でサンフランシスコに行く予定でした。ちょうど、アップル・マッキントッシュが始まっていた時代です。
私は、防水性が強いメッセンジャーバッグが欲しかったんです。当時スイスでは入手不可能だったので、どうしたら手に入るかいろいろ考えました。メッセンジャーバッグのあるニューヨークに買いに行こうかとか、輸入すればいいのではとか。
そんなとき、共同アパートのキッチンから大きな高速道路が見え、トラックが通るのが見えたんですよ。その時に思いついたんです。あのタープ(幌)は水に強いはずだ。そして古くなっていらなくなった時にはどうするのか。それをトラック会社に聞きに行こうっていう話し合いをしました。私はさっそく出かけまして、最初のトラックのタープを手に入れて帰宅したんです。それから弟との共同作業が始まりました。1993年のことです。

この日は星野もお気に入りのFREITAGのバッグを持参。対談のあとは滞在着に着替えて、2人で大手町を散策。かなり新しいスタイル。

この日は星野もお気に入りのFREITAGのバッグを持参。対談のあとは滞在着に着替えて、2人で大手町を散策。かなり新しいスタイル。この日は星野もお気に入りのFREITAGのバッグを持参。対談のあとは滞在着に着替えて、2人で大手町を散策。かなり新しいスタイル。

星野:
では、最初はこのメッセンジャーバッグを売ろうというわけではなかったんですね。
マーカス:
最初は2つのバッグからスタートしたんです。ひとつは自分用、もうひとつは弟用、それだけです。ところがバックをふたつ作るだけでも、ものすごく重労働でした。タープは汚れていたし、裁縫仕事がけっこう苛酷で……疲れてすぐに止めてしまいました。でも、トラックのタープは残っているし、友人たちから「私の分のバッグも作って」と言われ続け、しぶしぶ再開しました(笑)。でも、2人でやっていたのは良くて、私がこれで生計をたてている訳じゃないから作業をする気分になれなくても、弟が「この材料分だけはやってしまおう!」といった調子で、弟が頑張るというように。そうこうしているうちに、弟がサンフランシスコに行き、新しい何かを始めようとすると、今度は私が彼に「いやいや、注文が来ているし、もう少し待て」と言い、そんな調子で一緒に仕事をしていました。
星野:
当初は大きなビジネスになるとは思っていなかったんですね。
マーカス:
はい。当時、私はビジュアルコミュニケーションズを勉強する大学生でした。夜間や週末に出来る仕事があるといいなと思ってたんです。全くの素人考えでしたが、自分たちでバッグ作りをスタートして、ちょっと副収入ができればいいなと。

  
それが、トラックのタープを使用してバッグを作るのを思いついた時の考えでした。もうずっと弟と一緒だし、アイデアを捻出する時には一緒にするので、弟がアイデアをひらめいたら、私にはもっといいアイデアがあるよ、といった調子でお互いにチャレンジしあう、そういった関係です。
星野:
自分たち用のメッセンジャーバッグが欲しいという気持ちから始まり、その後トラックのタープを使用してのメッセンジャーバッグ作りを思いついたけど、それはハイウェイを眺めていたら思いついたってことですか。すごいな。たまたまそのアパートがハイウェイに面していたんですね。
マーカス:
はい。うるさくて、臭くて、埃っぽかったですね。アパートの裏にハイウェイがあって、表には湖がありました。表は天国ですが、裏は地獄のように交通量があります。すごいコントラストがありましたね(笑)。
そこで僕たちは何かを変えたくて、トラックをバッグにしたくなったのかもしれませんね。子どもの頃から自然と環境について考えていました。私の叔母は、庭でキッチンの生ゴミをコンポスト(堆肥)にするということを子供の頃から教えてくれていました。生ゴミが肥料になって、またトマトが育つというサイクルを自然に知るようになっていたんですね。

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太