Vol.1最近話題の「民泊」。
変革のために受け入れたい

星野:
最近、いろんなところに登場されていますから。よくお顔は拝見しています。
田邉:
いやお恥ずかしい。
星野:
直にお会いしたいと思っていました。時々私はメディアに出て、民泊賛成派として意見を発信しています。先日出演したNHKの『日曜討論』でも、官邸で行われる*「官民対話」でも、「地方こそ民泊で、地方こそ*Uberだ」という主張をしてきました。世の中もかなり前向きな流れになってきているという印象はあります。
田邉:
ありがたいです。

今回の対談はAirbnbのホストのリビングをお借りした。都内でありながら、緑豊かな環境、スタイリッシュでエコな雰囲気溢れる素晴らしいデザインのお宅今回の対談はAirbnbのホストのリビングをお借りした。都内でありながら、緑豊かな環境、スタイリッシュでエコな雰囲気溢れる素晴らしいデザインのお宅
https://www.airbnb.jp/rooms/7237079

星野:
まず今日は、この場ではなんでも話したいと思っています。もちろん公式サイトにアップする前に確認していただきますので(笑)。そうじゃないと、私も大変なことになってしまいます(笑)。90年代後半から2000年代前半、公の場所で自分が正しいと思う意見を、まわりを気にせず発言してきました。その当時は相当バッシングされましたけど、最近はもう誰からも何も言われなくなりました。「またあの人言ってるよ」って(笑)。
 実は先日、旅館業界の同業者の団体の皆さんがいらして「民泊反対」の活動に参加して欲しいというので、私は反論しました(笑)。
田邉:
えっ!
星野:
反対の理由の一つが「利用者の安全」ということであったのですが、私は民泊に、たとえそういう課題があったとしても、それは利用者や行政が問題視するなら解りますが、旅館業界が言うのは格好わるいと思うんです。本音は競争がこわいだけで反対しているとすぐに思われてしまう。
同時に私たちはもっと「顧客視点」で発想しなければいけない。なぜ民泊がこれだけ世界で広がりをみせているのか。それはホテルや旅館よりも顧客ニーズに応えている部分があるからなのです。私たちはこの現象をホテルと旅館の変革につなげないといけない。だから民泊の規制緩和に反対するのではなく、既存のホテルや旅館の変革の障害になっている旅行や旅館関連の規制も見直して、新しい顧客ニーズに応える変革が可能な環境を作って欲しいと主張すべきだと思っています。
田邉:
ありがとうございます。
弊社のプラットフォームを活用くださっている旅館業の方もすでにいらっしゃいますので、ぜひ、我々としても今後ぜひWin-Winの関係をより深めていきたいと考えております。
星野:
私は民泊賛成なのですが、なぜ民泊賛成かと言いますとね。私の体験から言うと、NYCのUberは、イエローキャブの意識を相当変えたと思っています。つまり新しい良いサービス・ライバルの登場は、既存のサービスの大変革につながる。私が留学していた80年代のイエローキャブは汚くて運転は荒っぽくて、英語も通じなくて、料金も安定しなかった。ただ、最近はそうではない。イエローキャブもUberのサービスのごとく、清潔で運転手のサービスも良くなりました。あれはUberがなければああならなかったと思っています。
 だから私はAirbnbにもどんどんやってもらいたいのです。競争こそが、ホテル側の変革につながりますから。
*官民対話
日本経済再生本部の下、「『日本再興戦略』改訂 2015」に基づき、グローバル競争の激化や急速な技術革新により不確実性の高まる時代に日本経済が歩むべき道筋を明らかにし、政府として取り組むべき環境整備の在り方と民間投資の目指すべき方向性を共有するため、未来投資に向けた総理大臣主宰の官民対話。
*Uber
自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリ。一般的なタクシーの配車に加え、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築している。また、顧客が運転手を評価すると同時に、運転手も顧客を評価する「相互評価」を実施していることが特徴。

「旅の化学反応」を求めるのが
Airbnbユーザー
日本はインバウンドゲスト数が5倍
世界でもトップクラスの伸びです

星野:
田邉さんはどういう経緯でAirbnb日本法人の代表になられたんですか?
田邉:
もともとはコンシューマー系のマーケティングをしていまして、コカコーラ、マイクロソフトなどにおりました。その後、huluの立ち上げを経験し、これから何をしようかなと思っていたときに、Airbnb のサイトを見たんですね。それで、これが普及したら旅がもっとエンタテインメント寄りになるのかな、と感じたんです。以前、MTVの立ち上げに関わったこともあり、旅とエンタテインメントの科学反応が起こったら面白いなと興味をもちました。
星野:
なるほど。今、アメリカの本社はどこですか。
田邉:
サンフランシスコです。
星野:
創業者はどういう経歴でこのサービスをスタートしたんですか。
田邉:
もともとはアートスクールの同級生だったジョー・ゲビアとブライアン・チェスキーという二人が起業を考えていて、二人で揃ったのはいいけれど、お金がない。翌月の家賃もえなくてどうしようというときに、この部屋をブログで見せて貸そうと。ベッドがないから、ゲスト用にエアーマットレスを膨らませて置いたんですね。それが社名であるAirbnbの語源になりました。そのあと、ネイサン・ブレチャージクが加わり、3人が共同創設者になりました。

過去30年、日本の規制にやりたいことができなくてもどかしさを感じてきた星野。今回の民泊規制に対して、ぜひぜひ田邉さんにがんばってもらいたいと思わず力が…過去30年、日本の規制にやりたいことができなくてもどかしさを感じてきた星野。今回の民泊規制に対して、ぜひぜひ田邉さんにがんばってもらいたいと思わず力が…

星野:
いい話ですね。ベッド代わりにエアーマットレスを(笑)。
田邉:
それもベッドルームではなく、エアマットをリビングに置いたり、キッチンに置いたりして。3人目までを泊めたらしいんです。そういう状況だから、なるべくおもてなしをしなきゃということで、外へ連れていったり案内したりして。泊まる側も泊める側もこれは楽しいよね、ということになって、Webサイトを立ち上げたそうなんです。
星野:
Airってインターネットの意味かと思っていたら、エアマットだったんですね。bnbはB&B、つまりベッド&ブレックファーストですか。
田邉:
意味としてはそうですが、部屋を貸す側はけっして朝食を提供する必要はなくて。基本的には宿泊場所で。提供されるおもてなしのレベルはディープにやられる方もいれば、置き手紙だけをされる方もいらっしゃいます。それはCtoCでお好きなレベルを提供することになっています。
星野:
アメリカでのコアユーザーというのは、Airbnbに対してどういう価値を見出しているんですか?
田邉:
Airbnbユーザーの多くは旅慣れた人たちです。平均年収も平均学歴も高めな方々で、旅をするときにはディープにその土地の文化を知りたい。地域の家に泊まると見えてくる景色や滞在時の体験が変わってきますよね。地元の人たちと同じような生活をしたり、文化や人に触れ「旅の化学反応」を求めています。Airbnbに集まる一般の人たちが提供する宿泊場所と生活&文化。それが楽しくて来ていただいているようです。ユーザーは旅慣れていて伝播力がある人たちなので、2013年頃まではまったくマーケティング活動することなく、190カ国以上に広まったのです。
星野:
スタートはいつなんですか。
田邉:
2008年ですね。
星野:
だいぶ前にスタートしていたんですね。私が知ったのは3~4年前です。だいぶ広まりましたよね。どのくらいの成長率なのですか。
田邉:
日本市場でいうと去年1年間で、インバウンドの数が5倍くらいになっているんですね。それに合わせるかのように、登録されているお部屋の数も3倍のペースで伸びてきています。
星野:
アメリカも同じようなペースですか。
田邉:
伸び率は少しスローダウンしてきていますけれども。まだかなり伸びています。
星野:
あるカテゴリーの顧客のニーズを捉えてるわけですね。ニーズの根本というのは、旅のヘビーユーザーがもうちょっと文化的にディープな体験を求めているということですか?
田邉:
まだまだマスではないですけれども。WEBサービスでもなんでも、創世期のサービスや商品に最初に寄ってきてくれるのは「本当にそのサービスや商品(旅)が好き」な人たちだと思います。それがAirbnbのサービスでは、「旅慣れてディープにカルチャーを知りたい人たち」ということでしょう。

日本のマーケットは世界でもトップクラスの成長率。アジアからの日本への旅行者も買い物だけでなく、体験がメインに移行しつつあるという。ホストが提供する宿泊という文化体験に注目してもらいたいと田邉さん日本のマーケットは世界でもトップクラスの成長率。アジアからの日本への旅行者も買い物だけでなく、体験がメインに移行しつつあるという。ホストが提供する宿泊という文化体験に注目してもらいたいと田邉さん

星野:
年齢層はどうですか。
田邉:
利用者は若い人からシニアまで。幅広いですね。
星野:
若い人寄りのサービスというわけではないのですね。
田邉:
はい。特にホストの人は年配の方の伸び率が大きくなっています。年齢や性別よりも似たような特性を持ってる方という感じがあります。もともと私はコンシューマーサービスをやっていますので、なんかのセグメントに切れないかといろいろ調査したのですが、やっぱり性や年齢では切れませんでした。どちらかというと世代を問わず、他の文化に興味をもっていて、コミュニケーション能力が高くてという方々ですね。
星野:
確かにそうですね。人の家に泊まって文化を楽しむのですから、コミュニケーションに長けていないといけないでしょうし、好奇心旺盛でそれを楽しめるというのが特性になっていくのでしょうね。
田邉:
そうですね。また、旅先での体験は旅先で完結するのではなく、好奇心の次の扉を開き、さらに体験を求めて旅に出たくなりますね。

対談日:2016年4月18日

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太