Vol.1「物語の中に入りたい」という思いが
バーチャルなゲームを
「リアル」にするという発想に

星野:
先ほど「リアル脱出ゲーム 時空研究所からの脱出」をうちのスタッフと体験させていただきました。ついに脱出できる鍵が!…と思ったところにさらに最後の謎が…というところで時間切れでしたが。
加藤:
「まあまあ」ですね(笑)。
星野:
いや~、ぜったい脱出したいと思っていたのに。しかし、発想はすごいですね。今、物語の種類はどれぐらいあるのですか。
加藤:
公演が終わってしまったものを含めると100種類くらいはあるはずです。
始めてから8年になりますが。月に1本のペースでは考えていますね。最近は月に2つか3つのペースにはなっていますけど。
星野:
ひとつのストーリーをつくるのにどれくらいの時間がかかるのですか。
加藤:
大体2ヶ月くらいです。並行して3つか4つは作っていますね。

対談直前にアジトオブスクラップ東新宿GUNKAN301にて「時空研究所からの脱出」に挑むチーム星野リゾート。時空を超えた発想が脱出のカギ対談直前にアジトオブスクラップ東新宿GUNKAN301にて「時空研究所からの脱出」に挑むチーム星野リゾート。時空を超えた発想が脱出のカギ

星野:
100種類もあるとパターンが煮詰まってきませんか。
加藤:
そうですね。ただ「求められているマンネリ」と「求められていないマンネリ」というのがあると思うんです。一つのものをつくるときに、隅から隅まで新しくする必要はないと。受け入れられているものを8割くらい残しつつ、残りの2~3割でまったく新しい要素を入れています。毎回、産みの苦しみはありますが。
星野:
それはテーマ設定で決まるのかもしれませんね。
加藤:
そうですね。救われているのは、たまたま僕らは「リアル脱出ゲーム」というフォーマットを思いつくことができたので、「こんな漫画とやりませんか」「こんな場所でやりませんか」というテーマを提供していただいて、バラエティ豊かなものをつくることができていると思います。
星野:
なるほど。先駆者だからフォーマットを手に入れることができている、と。
加藤:
ラッキーでしたね。
星野:
そうおっしゃるけれど、最初にこれを思いついたということが、ものすごい価値だと思うんです。なかなか思いつかないですよ。

「物語の中に入りたい」という思いがバーチャルなゲームを「リアル」にするという発想に

加藤:
私は子どもの頃から本を読むのがとても好きだったんですね。本の中に入りたいとずっと思っていたんです。
たとえば「ドラえもん」を読んだら、「ドラえもん」が僕の引き出しから出てきてほしいと思っていた。でもそんなことは現実には起こらないじゃないですか。本の中のことを現実に待ち焦がれていたけど、来ないな、と(笑)。大人になって、1回就職もしましたが、ぜんぜん楽しくありませんでした。このまま俺は年老いていくのかと。それで「俺、ミュージシャンになる」と言いだしまして。それも、音楽をやりたいというよりはバンド中心の生活をやりたい。バンド物語の住人になりたかったんだと思います。
それで自分の音楽を売るためにイベントをやったり雑誌を作ったりしているうちに「脱出ゲーム」というWebゲームのブームがやってきたんです。そこで、ああ、これをリアルな物語に置き換えることができるなら、30年以上入りたいと思っていた物語の中に入るって事ができるんじゃないかと思ったんです。
そしてそのときに僕の周りには、イベントをつくる能力、物語を作る能力…といった全部のスキルが揃っていたんです。それを全部つなげて、ぱっとやってみたらめちゃくちゃ当たった。
星野:
web上で「脱出ゲーム」がはやっていて、それをリアルにしたら楽しいなと思った、と。
加藤:
そうです。
星野:
「リアルで人気があるものをバーチャルで展開する」というのはあるけれど、加藤さんの場合は逆ですね「バーチャルのものをリアルにする」。
加藤:
狙ったというよりは、それしかできなかったんです。技術も何もなくて超文系人間だし。
星野:
物語に入りたいというのは、子どもの頃は一度や二度は思うことかもしれないけど、それが続いたというのはすごいですね。
加藤:
非常に子供っぽかったし、今も子供っぽい。
星野:
大人になってもその気持ちは変わらない。
加藤:
さすがに全く変わらなくはないですけど(笑)。普通の人よりは強いと思います。

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太