父と採っていたキノコで
フランス片田舎の
私たちの村は甦りました。

星野:
今回は軽井沢ホテルブレストンコートでの「軽井沢ガストロノミーサロン*注1」開催にご協力いただきまして、本当にありがとうございました。マルコンさんと同ホテルの総料理長の浜田統之とのコラボレーション、皆様にとてもご満足いただけたようです。いつも浜田を導いてもらっているのも感謝しています。マルコンさんの存在は浜田だけでなくスタッフ全員が多いに刺激を受けています。
マルコン:
浜田シェフと初めて出会ってからはしばらくたちますが、とうとう今年1月にはボキューズ・ドール*注2で3位を獲得しましたね。
受賞も嬉しかったのはもちろん、日本文化を体現したフランス料理がようやく評価されたのが良かったと思っています。軽井沢にいるのは、とても良い気分です。皆さんから愛を感じるし、もっとここを発展させたいという心意気も伝わります。

マルコンさんが
「キノコの魔術師」になった
いきさつとは、なんなのですか?

星野:
先日の軽井沢のサロンでは長野県のキノコを16種類使って料理されましたね。また、このほどキノコとその料理についての本『Champignons』*注2も出版された。そこには65種類のキノコ100のレシピが掲載されていますね。マルコンさんは「キノコの魔術師」と呼ばれているそうですが、なぜそう呼ばれるようになったのでしょう?
マルコン:
仕事をする上でまずコンセプトが必要だということは、星野さんはよくご存知だと思います。私にとって「キノコ」というコンセプトは、意図したものではなく、ごく自然な成り行きで得たものだったんです。もともとキノコ料理は私の生まれ育ったサンボネ・ル・フロワ村に古くから伝わる伝統食材の一つでしたし、私自身、キノコを採集することも好きでしたから。それに加え、私がキノコそのものに神秘性を感じていることも、コンセプトになった要因の一つだと思います。キノコを料理の中心に据え、ロゴやレストランの装飾部分にもキノコのモチーフを使っています。
星野:
いつから、キノコにのめり込み始めたんですか?
マルコン:
最初のきっかけは、父です。小さいころ、父と私の二人で森の中に入って、よくキノコを探していました。父はキノコについて詳しかったので、どこにキノコがあるかすぐに分かるのですが、幼い私は中々見つけられず、父からヒントをもらいながら、ゲームをするようにキノコを探していました。
星野:
お父様はキノコと関係あるお仕事をされていたんですか?
マルコン:
いえ、関係ない仕事でした。ですが私たちの住んでいる場所は田舎だったので、普通の人々もよく森に入りました。
星野:
なるほど。そのことが、ひいては料理人になるきっかけになっていくのですね。

マルコンさんが「キノコの魔術師」になったいきさつとは、なんなのですか?

マルコン:
実は、最初は料理人になるつもりはなくて、画家になりたかったんです。でも両親は反対しましたね。特に母親が宿を経営していたんですが、人気の少ない村でしたし、私たちは7人兄弟だったということもあって、家計は逼迫していました。それに当時は、親の言うことは絶対に聞かなければいけない時代でしたから、画家の道はあきらめました。それで、収入の見込みのある料理人を目指すことにしたのですが、その過程でとても良い料理の師匠と巡り会うことができました。その方はとても楽しそうに料理をされていて、私も彼のような料理人になりたいと思ったものです。彼は、料理における教育の必要性を私に教えてくれた人でもあります。
星野:
それは素晴らしいことですね。

キノコを目当てに
2日間で3万人が集まるフロウ村
都会より食の魅力の経済への波及は
インパクト大ですね。

マルコン:
私は、35年前からレストランをやっているのですが、2つの時代がありました。最初の時代は、妻と2人きりでやっていた頃です。本当に、お客様に料理を食べさせるだけの、静かな時代でした。やがて1995年から97年の間に、国際的なコンクールに参加したことで、料理を通して自分のメッセージを伝えられるという可能性に気付く時期がやってきました。次第に、料理で自分の住んでいる地方の魅力を人々に伝えることが私のミッションだと感じるようになり、料理自体もそのように変わりました。ある土地の魅力を表現するには、その土地だからこそ生まれる食のストーリーを作らなくてはいけません。そのためにはまず、土地について深く理解することが必要ですから、まずは、自分の周りで採れる食材に気を使うようになり、更にその地域の歴史と伝統を勉強し、地元の生産者との交流も始めました。キノコを「意識的に」料理に取り入れるようになったのもこの頃からです。同時にキノコ料理を目当てに村に大勢に人たちが訪れるようになってきましたね。
星野:
食の創造が都会でやるよりも地方でより大きな集客につながるという素晴らしい例になったわけですね。土地の生産者とがっつり組むことで、都会のパリではあり得ない料理が実現していくのですから。

キノコを目当てに2日間で3万人が集まるフロウ村 都会よりも食の魅力の経済への波及はインパクト大ですね。

マルコン:
はい。そうした活動に伴って、料理にまつわる「観光」について考えるようにもなりました。実は、20年前から私どものサン・ボネ・ル・フロウ村では過去にあった「キノコ祭り」というものを復活させました。これは料理人がキノコ料理のデモンストレーションをしたり、キノコにまつわる色々な催し物をする祭りなのですが、今日まで続けてきた結果、今では2日間で3万人の人々が訪れるようになったんですよ。
星野:
すごいことですね。今や人口220人の村に、マルコンさんの関連事業の人たちが100人以上いらっしゃるとも伺いました。「キノコ」は村の人たちにとって元々あった宝物だったのですね。

マルコン:
そうですね。キノコは元々村の経済の中で一定の位置を占めていたんです。ですから、私のキノコへの再注目は、村の特徴をより目立たせるためのものだった。キノコにフォーカスすることで、コンセプトがシンプルになり、より外に伝わりやすくなったのです。

食のブランディングと観光への波及は
日本という国に
とても相性がいいと思いますよ。

星野:
我々観光に携わる者は大いに学ぶべきところですね。日本には、様々な食材の名産地があります。そして、マルコンさんのような素晴らしい料理人になりたいという人もたくさんいる。そこで求められるのは、どのような食材を「食」のコンセプトに加え、どのように外に向って打ち出していけばいいのか。そういった地域における「食」のブランディングの重要性なんですよね。
マルコン:
まず前提として必要なことは、食材のスペシャリストになる前に、その地域のスペシャリストにならなければならない、ということです。そしてスタッフや生産者の方も含め、色々な人と協力しながら食のクオリティを上げていくことです。軽井沢の料理人達は、生産者の方も巻き込んで美食を追求しています。豚、牛、ハーブなど、既に食材への働きかけも行われているようでした。ですから、ある食材に特化するのは一つのコンセプトのあり方であり、最重要なのではないのです。一番重要なのは実際の料理がどう観光客に魅力的に作られるのか、です。
星野:
なるほど、マルコンさんとサン・ボネ・ル・フロワ村の「食」の魅力には、地元の食材が大きく貢献していて、それは地域の雇用の創出にもつながっている。すごく良いコンビネーションが生まれているのですね。
マルコン:
このモデルは食材も人材も揃った日本にはとても相性がいいはずですよ。一方で観光客のことを考えると、今、フランスでは「源流を探しにいく」ことが、バカンスにおける活動の目的です。それはつまり、忙しい時間を離れて静かに過ごすということです。
もちろん、そこには美食も含まれています。これは星野リゾートにいるときにも感じたことなんですが、軽井沢では「自然との共生」が上手くなされていると思います。私のホテルも、環境に対してサスティナブルな運営の仕方が評価されていまして、そこも共通点かなと思っています。
星野:
とてもうれしいですね。どうぞ、軽井沢を日本でのマルコンさんのホームタウンだと思ってください。

食のブランディングと観光への波及は日本という国にとても相性がいいと思いますよ。

構成: 森 綾
撮影: 山口宏之

今回の対談場所は

星野リゾート 界 箱根

星野リゾート 界 箱根の「特別室 箱根寄木の間」で行いました。箱根寄木の伝統工芸作家である露木清勝氏・清高氏親子の寄木細工が部屋を彩ります。

詳しくはこちら

注1 「軽井沢ガストロノミーサロン」
「軽井沢ガストロノミーサロン」2013年10月に「ブレストンコートユカワタン」の総料理長浜田統之とのコラボレーションで1泊2日のプログラムとして開催した「軽井沢ガストロノミーサロン」の様子。信州の食と風土を深く理解して味わう催しになりました。信州の特産佐久鯉の生産者のところにサロン参加者と訪れ、生産者のこだわりと食材のもつ滋味を確認した。
注2 ボキューズ・ドール国際料理コンクール
1987年設立のフランス料理コンクール。世界24カ国が参加する世界的権威のあるコンクール。2013年にブレストンコートユカワタン総料理長浜田統之は、日本人初の銅メダルを獲得した。
詳しくはこちら
注3 『Champignons』Editions de la Martiniere社刊
『Champignons』2013年9月に発行されたレジス・マルコン氏の新刊。調理・保存・レシピなど、キノコの全てについてが書かれている。
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