星野リゾート

NIPPONキュイジーヌ 星のや東京の料理長・浜田紀之による新感覚の料理

浜田 紀之 Noriyuki Hamada 星のや東京

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日本の伝統様式を重んじながら、現代人にあわせた快適性を取り入れて進化させた日本旅館「星のや東京」。そのダイニングで料理長を務める「浜田 統之」が、フランス料理の枠に捉われず、日本旅館で召し上がっていただく料理として、従来のどの料理にも当てはまらない、「Nipponキュイジーヌ」を生み出しています。

星のや東京

玄関で靴を脱ぎ、畳にあがるという日本の生活文化を継承する日本旅館。
星のや東京では、世界に認められる「和のおもてなし」を日本人にも海外から訪れる方にも体感いただき、その哲学を世界に発信しております。

星のや東京施設サイト

料理想いをのせた一皿

アミューズ「石」五つの意思

日本固有の味覚である五味(酸・甘・ 苦・辛・旨)を小さな五つの料理に詰め込み、繊細な技術で表現したコース料理。 浜田を象徴する料理のひとつです。
料理例:(左から)コハダのタルタル/パンプキンスープ/秋刀魚のブーダンノワール/牛テールのコロッケ/鶏レバーと栗のムース

前菜「汕」ゴマサバ

着物の帯に見立てた紅芯大根のピクルスを敷き、酢で〆て香ばしさを出すために皮目をあぶったゴマサバに、生姜風味のドレッシングを合わせた一品です。彩りも鮮やかに春菊のオイルとミョウガなどの薬味を合わせ、仕上げには三色すみれの可憐な姿をあしらいました。

浜田の姿勢人と食材

東京には巨大な市場があり、全国から食材が集中しています。ただ、浜田は「食材には、生産者の人柄が表れるもの」と考えているため、まずは会いに行くことから食材探しが始まります。「お客様に食材本来の味を知ってほしい。自然が教えてくれたタイミングを逃さず採った食材だからこそ持っている味や香りを、料理で伝えたい。」浜田は生産者と繋がる姿勢を貫いています。

コンセプト食材との出会い

浜田 紀之

2005年ボキューズ・ドール日本大会において、史上最年少で優勝。/2013年フランスで開催されるボキューズ・ドール国際料理コンクール決勝で日本人初の銅メダルを受賞。/2016年7月に開業した「星のや東京」の料理長となる。

大事にしている言葉はありますか

「LESS IS MORE 」という、ドイツ出身の建築家ミース・ファン・デル・ローエが提唱した言葉です。「限るから本質に近づく」という意味です。この言葉は料理にも通じる考え方だと思います。東京にはあまりに豊かな食材が集まるので選択肢は無限にあります。だからこそ選んだ素材そのものと向き合い、より一層引き立たせるためにどうするかを考えていきます。自らに制限をかけることでむしろ発想が豊かになり、調理に手間と時間は何倍もかかりますが、これが料理人の本質だと思うのです。

自分の料理に影響を受けている人はいますか

たくさんいます。その中でも、法隆寺の宮大工棟梁「西岡 常一」さんには多くのことを学びました。例えば、西岡棟梁の言葉で「真っ直ぐの木は使わない。反ってる木を2つ使うと真っ直ぐな木より硬くなる」というものがあるのですが、それは料理に例えると「高級魚と雑魚」の話と通じると思いました。 高級魚がおいしいのは当たり前ですが、雑魚を使うことで、それよりもおいしい料理ができるのではないかと思い、雑魚のスペシャリテを発想しました。

日本旅館「星のや東京」だからこそ、意識していることはありますか

軽井沢のフレンチ「ユカワタン」から星のや東京に来て改めて感じたのは、ここには日本旅館を体験するために、世界からお客様がいらっしゃっているということです。もちろん食でも旅館を体験してほしいので、「Nipponキュイジーヌ」にはお椀や和食器を使ってます。また、チェックインから夕食までの統一感を大切にし、星のや東京の入り口の青森ヒバの一枚扉を作ってくださったヒノキ工芸さんに、同じ素材で料理を載せる敷膳も作ってもらいました。

浜田シェフの夢を教えてください

「星のや東京に行ったら間違いなくおいしい物が食べられる。」そう、日本だけではなく世界中の人に思ってもらいたいんです。そして、それを「魚を使ったスペシャリテ」で実現したいと考えています。四方を海に囲まれ、山・川の恵みがある島国日本。日本の食文化を支えてきた魚とフランス料理の技法を使って、海外からわざわざ食べに来ていただけるような、日本でしか食べられない料理を一品でも多く作り、日本の食材の素晴らしさを世界に発信していきたいと思っています。

星のや東京レポート犬養裕美子

大手町のオフィス街に“塔の日本旅館”というコンセプトのホテルがオープンして半年が過ぎた。そのメインダイニングでは「ホテルブレストンコート」の浜田統之氏が新しい料理に挑戦するという。このプロジェクトが発表された時から、私は興味深々だった。浜田シェフといえばフランス料理のボキューズ・ドール国際料理コンクールの魚料理で、世界最高得点を取ったフレンチのシェフ(01)。信州の自然からインスパイアされた料理を確立した浜田シェフが、東京のど真ん中で何を表現するのか? その料理を味わえる日がようやくやってきた。

1Fのエントランスで靴を脱ぐ。日本旅館なのだから当たり前なのだが、レストランで食事をするのにも靴を脱ぐという過程に少し面食らう。しかもエレベーターは地下に向かうではないか! 地下のメインダイニング(02)は未だかつて体験したことがない。迷路のような地層の小路を辿って案内された個室は、畳敷きでテーブルと椅子があるだけ。抑えた照明で装飾もなければ、外も見えない。音のない静寂の世界はあたかも“茶室”のよう。

料理はコース1本のみ。献立はテーマになる一文字と素材だけで表現されている。その日は「季(蛤)、石(5つの意思)、山(ゴマサバ)、温(鮟鱇),足(甘鯛と蕪)、鮮(赤身とトロ)、改(柿)、豊(柚子と文旦)、果(おたのし実)」。献立にないアミューズが食事の始まりだ。雑魚のチュイル(薄い煎餅のようなもの)(03)と雲子のフリット。器や飾りは和のテイストだし、雑魚のチュイルは竹炭とチーズの風味が和洋折衷の風味を楽しませてくれる。続く季(蛤)も、小さな器に紫蘇オイルと蛤の出汁のスープ、貝殻の中に蛤と、海苔バターで蒸した花びら茸を封じ込めた和洋折衷。我々日本人が好む旨味(海のミネラル)と、欧米人にとっての旨味(バターやチーズなど乳製品)が共存する。

石(5つの意思)(04)は浜田シェフが軽井沢時代から続けているスタイルだ。コハダと大根、オニオンのポタージュ、春菊のコロッケ、カツオのブーダン・ノワール、クリームチーズを合わせたユリ根饅頭。いずれもひと口で味わう料理だが、静かな環境で味わうと味と食感、香りがよりクリアに感じる。

ゴマサバは酢で〆て、皮目をあぶり、甘酢のソースで花と合わせて味わう。秀逸だったのは足(甘鯛と蕪)の料理。世界一を獲得した時の料理をアレンジした一皿だ。カリカリに仕上げた甘鯛のウロコ焼き(05)に、焼いた蕪のジューシーな甘さは、浜田シェフならではの「Nipponキュイジーヌ」として記憶に残る。

これまで日本の料理人は欧米の料理を学び、正確に再現することに集中してきた。しかし、浜田氏のように世界の舞台で評価を受けたシェフは、次の段階へと飛躍する。つまり日本から世界に発信すること。今後は「野菜と魚に絞りたい」という浜田シェフ。既成概念をどう破り、どう楽しませてくれるか?次に訪れる、その日が待ち遠しい。

犬養裕美子(レストランジャーナリスト)

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。食に関わるさまざまなイベントで講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。